貸したお金は借用書がない場合は返してもらえない? 弁護士が解説!
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総務省の労働力調査によると、群馬県の就労者数は、令和2年、新型コロナウイルス感染拡大による影響をうけたためか、減少に転じたことがわかっています。
そのような中、友人や親せきから、一時的な事業資金不足や子どもの学費が足りないなどの理由でお金を貸してほしいと頼まれ、応援の気持ちもあり口約束で快く応じてしまった方がおられるかもしれません。しかし、口約束だけでは貸したお金を返してもらえない危険性が高くなります。では、万が一のことがあっても泣き寝入りするしかないのでしょうか?
本コラムでは、借用書がない借金は法的手段がとれるのか、とれる場合はどうすべきかについて、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説していきます。
1、お金の貸し借りに借用書は必要?
個人で金銭の貸し借りを行う場合、借用書を作らないまま貸してしまうケースがあります。相手を信用しているからと、返済方法などについても何も決めずに貸し借りをするようです。
では、借用書がない場合、貸したお金を返してほしいと相手に請求できなくなるのでしょうか。
結論からいえば、個人でお金の貸し借りをした場合、たとえ借用書がなくとも金銭消費賃借契約が成立します。
金銭消費賃借契約とは、金銭を一時的に借りて消費し、将来返すという契約のことです。この契約は、貸主と借り主が金銭の貸し借りをするという合意と、金銭の受け渡しが実際にあればよく、契約書がなくても成立する契約と考えられています。
したがって、たとえ口約束だけで借用書がない場合でも、貸したお金を返してほしいと相手に伝える権利はあります。もっとも、現実的な問題として、相手が認めない場合、借用書等の客観的な証拠がないと、貸金の返還は困難であることが多いです。
2、借用書の代わりとなる貸し借りの証拠とは?
前述したように、金銭消費賃借契約は金銭の貸し借りの意思と実際の受け渡しだけで成立します。しかし、債務者が借金の事実を否定する場合など、返済を求める際はトラブルの元にもなるケースは少なくありません。
そもそも、借用書の作成を渋る相手にはお金を貸すべきではないともいえます。しかし、個々の関係性でさまざまな事情があるものです。そこで、借用書を作成しない場合は、お金を貸したことがわかるように、以下のような証拠を残しておくようにしましょう。
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(1)振り込みの明細書
少額なら現金を手渡しで貸してしまうケースもあるかもしれませんが、なるべく銀行振り込みをして、貸したお金の金額と日付がわかるようにしておきましょう。
時効の問題となった際にも、通帳の記入があれば日付を証明する証拠となることが多いです。 -
(2)督促のメール
貸したお金の返済を促すメールなどを送り、相手の返事があればそれも一緒に保存しておきましょう。LINEなどSNSのスクリーンショットでも有効となりうるケースがあります。
なお、相手が借りたお金を返す意思があることがわかる内容であれば、時効が更新されていると法的に判断できる可能性があります。
3、借用書がない場合の注意点
借用書がない金銭消費賃借契約の場合、気をつけておかなくてはいけないことがいくつかあります。順に紹介していきます。
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(1)時効が成立しないよう注意
時効についての取り扱いは、令和2年4月1日から民法改正によりやや複雑になりました。具体的には以下の通りです。
<返済期日が令和2年3月31日までの時効>
- 金融機関から借りた借金……5年
- 個人間でのお金の貸し借りをした場合……10年
<返済期日が令和2年4月1日以降にしていた場合の時効>
- 金融機関から借りた借金……5年
- 個人間でのお金の貸し借りをした場合……5年
また、返済日を決めていなかった場合、お金を貸した日を起算日として考えるので、時効は以下の通りとなります。
- 令和2年3月31日までに貸したお金の時効……10年
- 令和2年4月1日以降に貸したお金の時効……5年
借用書がない場合はいつお金を貸したかも曖昧になってしまいがちです。時効によって返済義務が消滅していることを相手が主張する「援用」という手続きをされてしまうと、返済をしてもらうことが極めて困難になります。時効が成立してしまわないように注意しましょう。
もし、時効を迎えてしまいそうなタイミングで気づいた場合は、内容証明を発送することにより催告を行ったり、訴訟を起こしたりする必要があります。これらの法手続きにより、時効の完成が猶予されるためです。時効を迎える日時に注意して、できるだけ早期に手続きを進めましょう。
なお、相手が「時効の援用」と呼ばれる意思表示をしなければ、借金は消滅しません。 -
(2)督促の方法にも注意を
督促の方法にも注意する必要があります。借用書があればすぐに法的な手段をとることも考えられますが、ない場合はお金を貸した事実の立証が難しくなるためです。
場合によっては、相手方から、本当は貸してもいないお金を請求しているという事態にされてしまう可能性があります。少額でも返してもらえるよう請求して、お金を貸した事実を証明する証拠を残していくようにしましょう。
また、催促をしすぎて、暴力事件などのトラブルに発展しないよう注意する必要があります。場合によっては、ストーカーに仕立て上げられてしまうこともあるかもしれません。相手が逃げている様子があるときは、無理に個人だけで解決しようとせず、速やかに法的手続きをとるほうが無難です。
4、個人間で貸したお金を返してもらう方法
信頼してお金を貸した相手を、いきなり法的に訴えるのは抵抗があることでしょう。ここでは、段階的にお金を返済してもらうための方法について紹介していきます。
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(1)口頭やメールで督促する
まずは、個人で相手に連絡をとり、返済を促すようにしましょう。
相手が返済の猶予を依頼してきたり、少しでも借金を返してきたりした場合には、それがお金を貸したことの証拠にもなります。
また、法律上の「時効の更新」に該当する場合もありますので、こまめに連絡をとって、返済のことを確認するようにしたほうがよいかもしれません。 -
(2)弁護士に依頼する
親しい相手に直接借金の返済を求めることは精神的にもつらいものです。そんな場合は弁護士に相談しましょう。代理人となって相手と交渉してもらうことで精神的な負担が減りますし、相手も貸主が本気であると知って、返済してくれる可能性が高まるかもしれません。
また、弁護士に依頼すれば、借用書がない場合でも証拠となる記録を探して、今後の法的な手続きを進める際にも安心して任せることができます。裁判に発展しても、そのまま代理人として手続きを任せることが可能です。 -
(3)督促状を送付する
個人での話し合いや、弁護士を通しても折り合いがつかない場合、法的な手続きをもって借金を取り立てることになります。しかし、そのためには金銭の貸し借りを証明することが必要になります。
借用書がない場合は、まず配達証明つきの内容証明郵便で督促状を発送する方法が考えられます。それでも相手が支払わない場合は、裁判所から支払督促状を送付してもらう手続きをとることを検討したほうがよいケースもあるでしょう。支払督促の手続きは、相手に否認された場合、通常の訴訟に移行し、証拠に基づく立証が必要となりますので、弁護士に相談の上、慎重に対応することをおすすめします。 -
(4)訴訟を提起する
支払督促状を送っても相手が借金を認めず、異議を申し立てた場合は口頭弁論が開かれ、訴訟に移行しますが、相手が否認している場合は、客観的な証拠がないとなかなか認められないでしょう。
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(5)強制執行
裁判所で勝訴し、差押命令がでると強制執行をすることができます。これは、債権を回収するため相手の財産を差し押さえなどを行う法的な手続きのことです。相手の給与や預金が差し押さえの対象となります。
5、まとめ
お金を貸すときは人助けだと思って快く貸してあげられても、その後の返済がなかったり、今度は自分が困窮してしまったりすると、早く返してほしいと思うのが人情です。しかし、口約束で借用書がない場合は、相手は知らんぷりをしてお金を返してくれない可能性があります。
そうならないように、お金を貸すときは貸主と借り主の両者の署名押印をした借用書を作るようにしましょう。貸付金額、返済期日や返済方法、契約日なども忘れずに記入しておくことが重要です。借用書が作れない場合は、お金を貸すのをやめることが適切な手段のひとつとなります。どうしても貸す必要がある場合は、お金の受け渡しは銀行振り込みにするなど、証拠が残る手段を選ぶようにしましょう。
時効が完成してしまうとお金を返してもらえなくなります。貸したお金が返してもらえず困っている場合はすぐにでも弁護士に相談することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスでは、借金問題の経験豊富な弁護士が、最善の結果を出せるよう尽力します。
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