取引先が倒産・破産したら売掛金の回収はどうなる? 連鎖倒産を防ぐ方法とは
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新型コロナウイルスの影響もあり、中小企業の経営者にとっては厳しい状況が続いています。群馬県高崎市では、2020年9月に創業74年の老舗人形会社が倒産したというニュースが報道され、地元に動揺が走りました。
一社が倒産・破産すると、懸念されるのは取引先の連鎖倒産です。特に、売掛金が残っている場合、取引相手が倒産手続きをとると、回収できないリスクが現実化してしまいます。そんなとき、経営者としてはどんな手段をとるべきなのでしょうか。自社の倒産ドミノを防ぐために、取引先の倒産・破産時の適切な対応について、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が詳しく説明します。
なお、以下で出てくる「倒産」とは、取引相手が、破産・民事再生・会社更生・特別清算といった法的な手続きを申し立て、同手続きが開始されたことを指します。
1、日頃から行っておくべきこと―取引先の情報収集
取引先の倒産などにすぐに気づくことができるようにするというだけでなく、取引先からのスムーズな債権回収を行うためにも、情報収集を欠かさず行っておくことが非常に重要です。
必要な情報があれば、いざ債権回収を行うこととなった際に、債権回収の方法としてどれを選択すれば実効性があるのか、あるいは、状況を踏まえて選択すべきでない債権回収の方法はどれかなど、債権回収に向けた方針を立てることができます。
情報収集の方法としては、取引先の協力が得られるのであれば、取引先の決算書(財務諸表)を入手しましょう。
入手できた書類の内容によっては、預金の有無、売掛金の有無、不動産の有無だけでなく、預金先の金融機関情報や、取引先の取引先情報も知ることができます。また、取引先を実際に訪問することで、従業員の様子、在庫の状況などから、経営状況を推測することもできるでしょう。
決算書が入手できなかったとしても、取引先の商業登記や取引先(関係者)が保有している不動産の登記を確認する方法があります。特に、不動産登記については、不動産の所有者が誰か、(根)抵当権が設定されていないかなどの情報を得ることができますし、共同担保が設定されていれば、その情報を基に新たな不動産情報を得ることもできます。
2、倒産する会社の予兆とは
倒産は、突然起きるわけではありません。普段から取引をしている会社なら、倒産の予兆に対するアンテナを張っておくことで、連鎖倒産に備えることができます。経営者なら、ぜひ会社倒産に特徴的な予兆について知っておきましょう。
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(1)支払いの遅れやリスケ
倒産の最大の予兆は、なんといっても支払いの遅延です。倒産直前は、借り入れと返済に追われて自転車操業に陥っていることが多いため、どうしても支払いが遅れがちになります。特に、昔からの付き合いがある取引先同士だと、支払いが遅れてもすぐに催促せずに、ずるずると次の受発注を続けてしまうことがあります。
こうなると、相手としては遅れても大丈夫だと思ってしまい、気が付くと相当な金額の売掛金が未収のまま、ということもあり得ます。そうならないためには、支払いの遅れを見逃さないことが重要です。
支払いの遅延以外にも、下記のような事情があれば、倒産の予兆である可能性があります。なお、こうした事情が、経理担当者で止まってしまい経営者サイドまで共有されないこともよくあります。そうなると、経営者としてとるべき手段をとれないままに取引相手の倒産に至ってしまうリスクがあります。取引先の支払いに関する事情は、しっかり社内で情報共有することが大切です。- ① 支払期限の延長(リスケ)を求められる
- ② 現金払いから手形払いに変更を求められる
- ③ 売掛金の分割払いを求められる
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(2)従業員が解雇されている
資金繰りが苦しくなってくると、人件費を削る方向に進みがちです。希望退職者を募ったり、従業員を大量に解雇したりしているなどの動きが見られたら、その会社には何らかの問題が発生しているとみていいでしょう。
そして、人件費を削ったとしても、それによって業績を回復させられる会社は一握りです。会社は人で成り立っていますから、解雇すればそれだけ会社の力が失われていくからです。急に従業員数が減っている会社には注意すべきです。 -
(3)極端なセール
経営に行き詰まると、長期的な成長戦略を放棄し、目の前の売り上げに飛びつこうとする傾向があります。その結果、在庫セールや極端な安売りなどで、現金を得ようとします。
しかし、場当たり的なセールを繰り返しても利益は上がりませんし、ブランドイメージは低下します。過去の倒産事例においても、倒産前に無茶なセールを打ち出し、顧客から現金を前払いで受け取ろうとするケースがよくあります。こうしたやり方は、従業員にとっても不安と大きな負担をもたらすため、さらに会社は傾いていきます。倒産前の予兆として押さえておくべきです。
3、取引先が倒産した場合のリスク
実際に取引先が倒産してしまった場合のリスクについて整理しておきましょう。
実際のところ、取引先が破産・民事再生・会社更生などの法的手続きを開始してしまうと、売掛金の回収は困難を極めます。事前に確実な担保をとっていなければ、全額の回収はもちろん、一部でさえも回収は難しいと覚悟しておく必要があります。
また、一社が倒産したことで他の取引先も資金繰りに悪影響が生じ、あっという間に連鎖倒産が起きることがあります。こうなると、早い者勝ちという心理が働いて、自社に対しても次々に返済を求められる内容証明が届くようなことがあります。
金融機関も倒産情報には敏感ですから、新たな融資を断られる可能性も高く、一気に悪循環に陥るリスクがあります。
4、取引先が倒産したときの法的対策
では、取引先の倒産に関する情報が飛び込んできたら、経営者としてはどのように動くべきでしょうか。
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(1)情報の確認
取引先の倒産情報に接したら、できるだけ早く取引先を訪問し、事実関係を確認しましょう。
もちろん、電話で確認してもよいのですが、倒産情報が流れた時点では、会社に電話がかからないこともよくあります。仮に電話が通じたとしても、電話に出た人が事情を正しく説明してくれるとは限りません。実際に会社に行ってみると現状を確認することができますし、倒産の理由や今後の連絡先を記した張り紙があることがあります。
また、時には、倒産情報自体が、根も葉もないデマだったということもあります。このようなデマに踊らされて慌てた行動をとると、自社が信用を失いかねませんし、その行動の結果、取引先に損害が生じた場合、賠償義務が生じることにもなりかねません。きちんと正確な情報を入手するように努めましょう。
このとき、不安のあまり、許可なく取引先の建物内に侵入したり、その場にあるものを勝手に持ち去ったりすることは絶対にやめましょう。その取引先に対する売掛金があったとしても、建造物侵入や窃盗に該当し、刑事罰を受ける可能性もあります。また、財産を持ちだしたことが、詐害行為取消や否認権行使の対象になり、訴訟を提起され、これを返還しなければならなくなることも考えられます。 -
(2)所有権留保の活用
取引基本契約書など、取引先との取引を開始するにあたって取り交わす契約書の中で取り決めておく必要がありますが、取引先に自社の商品を納めている場合、その商品について所有権留保の取り決めがあるかを確認しましょう。
所有権留保とは、商品を引き渡した後でも、代金が完済されるまではその商品の所有権を売主に留保することです。この取り決めがあれば、売掛金を回収するまでは自社に商品の所有権があります。ただし、倒産にあたっての法的手続の中で権利(別除権)を行使するには、対抗要件を備えておく必要がありますので、「占有改定による引渡し」とする条項も併せて条項として盛り込んでおきましょう。こうしておけば、商品の引渡しを求めることができるわけです。
実際に商品を引き上げる際のポイントは、自社がどんな権利に基づいてどの商品を引き上げるのか、客観的に明らかにしておくことです。思わぬトラブルに巻き込まれないように、書面をきちんと用意すること、そして、引き上げの際には、取引先やその代理人弁護士などの立ち合いを求めてサインをとっておくようにしましょう。 -
(3)保証人からの回収
これも事前に有事に備えた条項を設けた契約を締結していることが前提となりますが、売買契約について保証人をつけていないか早急に契約書をチェックしましょう。保証人がいるなら連絡をして事情を説明し、債務の支払いを求めるべきです。なお、個人の保証任による根保証契約の場合、保証の限度額(極度額)を定めておかないと効力が生じません(民法465条の2第2項)。
ただし、会社の売掛金については会社の代表者が保証人となっている場合が多く、会社の破産に伴って会社代表者も破産に追い込まれるケースがほとんどです。回収ができるかどうかは確実ではありませんが、契約内容を改めて確認することを怠ってはいけません。 -
(4)相殺
自社が取引先との間で買掛金などの債務を負っている場合には、売掛金と買掛金を対等額で相殺することで、売掛金を実質的に回収できます。
有している売掛金と取引先の破産手続開始決定後に新たに負担した債務との相殺などは、他の債権者を害することになるため、原則として禁止されています。相殺に限らず、破産手続きの前後には多数の法的な規制があります。債務を取得した時期によって相殺が認められたり認められなかったりします。また、これには例外もあり、具体的事案において相殺が可能か否かは慎重な判断が必要になります。うっかり違法な行為に及ぶことのないよう、弁護士にアドバイスを受けて慎重に進めることをおすすめします。 -
(5)債権者代位権の行使
取引先の代表者や関係者と連絡がとれなくなってしまうということもあり得ます。そのような場合でもとり得る債権回収の手段としては、債権者代位権の行使があります。
債権者代位権とは、債権者が、債務者に代わり、債務者の権利を行使するものです。たとえば、取引先が、さらにその取引先(第三債務者)に対して売掛金を有している場合、自社が取引先に代わって、第三債務者に対して売掛金の支払いを請求することができます。
このとき、第三債務者に対して、売掛金の支払いを自社に対して行うよう求めることができます(民法423条の3)。これにより、取引先に対して返還債務を負うことになりますが、これと売掛金債権を相殺すれば、事実上、優先的に弁済を受けたこととなります。 -
(6)動産売買先取特権
破産手続においても、抵当権などの担保を有している場合には、別除権者として、担保権を本来の実行方法に従って実行し、被担保債権を回収することが可能です。
たとえば、動産売買先取特権があります。
動産売買先取特権とは、売買契約の売主の権利を守る特別な規定で、売主が買主に対して商品を売った場合、その売買代金と利息について、他の債権者に優先してその商品から弁済を受けるための特別の法定担保物権(民法311条5号、321条)のことをいいます。
動産売買先取特権は、破産手続においても別除権として扱われる強力な権利です。つまり、債務者である取引先が破産しても、破産手続の影響を受けることなく、その商品から弁済を受けることができるのです。動産売買先取特権を行使する際は、売買契約の成立や、その商品が自社によって納品されたことなどを自社が立証しなければなりません。権利自体は目に見えませんから、契約書、商品を特定できる発注書や納品書、配送伝票など、目に見える証拠を自社が用意するべきだと考えましょう。
取引が長ければ長いほど、きちんとした書類を交わさずにずるずると発注と受注を繰り返している場合もあります。すぐに書類を確認して、自社が売買先取特権を行使できるかチェックしましょう。
5、債権回収の不安は、早期に弁護士に相談
倒産に関する債権回収は、平常時とは全く異なる規制を受けます。普段の債権回収も放置することなく弁護士に早めに相談することが有用です。それとは別の観点で、倒産前後の債権回収について弁護士に相談することで大きな2つのメリットがあります。
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(1)倒産前後の取り立てのトラブルを避ける
取引先の倒産は、それ自体が自社にとっての大きなリスクです。売掛金が残っている場合は、一刻も早く1円でも多く回収したいと思うところでしょう。しかし、倒産の手続きは法的にかなりの規制が設けられており、焦って無理な取り立てをすると違法となる可能性が十分にあります。
たとえば、取引先から代物弁済や債権譲渡などで弁済を受けたとき、それが正当な債権だったとしても、他の債権者から異議を出され、詐害行為取消権や否認権の行使を受けて裁判になったり、その結果として、必死で回収した金銭をとられてしまったりすることもあります。
こうしたリスクを避けるために弁護士に早めに相談して最善な手段を探っていくべきです。 -
(2)裁判所からの書類に適切に対応する
倒産に関する法的手続きが正式に開始されると、弁護士や裁判所から書類が届きます。倒産の手続きには、会社破産、代表者個人破産、会社更生、民事再生など多数の手続きがあり、かなり複雑です。
書類の送り主も、申立人代理人弁護士、破産管財人弁護士、裁判所など複数存在します。書類を見ても、何が書いてあるのか、自分がどうしたらいいのか、一見わからない場合も多いものです。
そのようなときでも、絶対に放置してはならない書類があります。それは、裁判所からの債権届です。債権届出を期限内に提出しなければ、たとえ、取引先に資産が残っていて、返済(配当)を受けられる場合でも、その配当を受ける権利を失ってしまいます。
決められた期限までに、正しく記入した債権届を返送することは、なによりも大事です。債権届出には、元金、利息、遅延損害金、発生日、別除権などを記載する必要があります。別除権には担保や相殺などが入りますが、正しく記載するには、法的な理解が必要です。倒産手続きに慣れた弁護士であれば、何をどのように記載すればよいのか、注意点も含めて説明可能です。自社の正当な権利を失ってしまうことのないように、弁護士に相談しながら進めましょう。
6、まとめ
取引先の倒産情報が飛び込んでくると、経営者としては不安にかられるものです。社員の間にも不安が広がって、社内が混乱することがあります。そんな時にこそ経営者の力が発揮されるといっていいでしょう。
連鎖倒産に巻き込まれず、社内を安定させてしっかりと債権回収の見込みを立てていくためには、経営手腕とともに、法的な理解がカギになります。債権回収や会社倒産に関する法的手続きの経験のある弁護士に早めに相談されるメリットは大きいです。ぜひベリーベスト法律事務所にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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