脅迫罪になる言葉とは? 恐喝罪・強要罪・強盗罪との違いと刑罰
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令和6年3月、群馬県警前崎地裁が、男性に対して金品を脅し取った容疑で起訴されていた女性に対して実刑判決を言い渡したという報道がありました。「脅す」という行為から脅迫罪にあてはまると思うかもしれませんが、恐喝罪などで有罪となっています。
言葉の行き違いやネット上で行われていた議論の結果、ついカッとなってしまった結果、たとえ、相手に直接暴力を振るっていなくとも、内容や状況次第では言葉だけで「脅迫罪」が成立する可能性があります。状況によっては、冒頭の事件のように恐喝罪などが成立する可能性すらあるのです。
本コラムでは、脅迫罪に該当する言葉や態度、強要罪・恐喝罪・強盗罪との違いなどについて、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が説明します。
1、脅迫罪とは
脅迫罪がどのような犯罪にあたるのかについて、刑法第222条では下記の通りに規定しています。
第1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
第2項 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
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(1)脅迫の対象は?
脅迫の対象は“人”です。ここでいう“人”とは、「自然人」、つまり生身の人間のことですので、会社などの「法人」は脅迫対象となりません。
脅されている人の親族も、脅迫の対象となります。
たとえば、「おまえの息子を殺すぞ」といった脅し文句が典型です。 -
(2)脅迫の内容について
脅迫の内容は、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨」です。
そもそも、「脅迫」とは、一般に人を畏怖させるに足りる害悪の告知をいい、実際に相手方が畏怖したことは必要ないと解釈されています。なお、ここで登場する「畏怖」とは、文字通り「恐れおののかせること」を意味します。 -
(3)脅迫の手段は?
刑法222条の条文では「告知して人を脅迫した」と書かれていますが、これは口頭での告知に限らず、手紙やメールなどの文章や態度にもあてはまります。
ネット上のブログやSNSで特定の相手を名指しで「殺すぞ」と書いたり、相手に「殴るそぶり」を見せたりすることも脅迫に該当する可能性があります。 -
(4)脅迫罪の刑罰について
脅迫罪は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金となります。行為の内容や態様にもよりますが、懲役刑ではなく罰金刑となるケースは少なくありません。
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(5)脅迫の時効はいつまで?
脅迫罪の公訴時効は3年です(刑事訴訟法第250条第2項第6号参照)。つまり脅迫のあとすぐに立件されなくても、その後3年間は起訴される可能性があるということです。
2、脅迫にあてはまる言葉・あてはまらない言葉
ここでは具体的な例を挙げながら、それぞれの言動が脅迫罪にあてはまるかどうか見ていきましょう。
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(1)脅迫になりうる表現
●殺すぞ
これは相手の生命に対して害を告知するものであり、人を畏怖させるに足りる害悪の告知といえ、「脅迫」に該当するでしょう。もちろん「おまえの子どもを殺すぞ」など、親族の生命に対する言動も同じです。
●殴るぞ
殴る蹴るといった暴行を予告する言葉は、身体に対する害の告知であり、人を畏怖させるに足りる害悪の告知といえ、「脅迫」に該当するでしょう。もちろん、握りこぶしで殴り掛かるそぶりを見せることも、脅迫になる可能性があります。
●帰れなくしてやる
「家に帰れなくしてやる」、「閉じ込めてやる」といった言葉は、身体の自由に対する害を告知であり、人を畏怖させるに足りる害悪の告知といえ、「脅迫」になる可能性があります。
●世間に公表してやる
本人が世間に知られたくないことを「公表してやる」、「言いふらしてやる」などの発言は、公表の内容次第では、「脅迫」になる可能性があります。具体的には、「不倫をしていることを会社にばらすぞ」という場合には、「脅迫」になる可能性が高いでしょう。
●大切なものを壊してやる
「持ち物を壊してやる」、「家に火をつけてやる」、「ペットを傷つけてやる」といった言葉は、財産に対する害の告知であり、人を畏怖させるに足りる害悪の告知といえ、「脅迫」に該当する可能性が高いでしょう。 -
(2)状況や日頃の態度も重要
相手を脅迫するような言動が行われた状況、あるいは当事者たちの日頃の態度も重要な判断要素です。 たとえば、普段仲がいい友人同士がふざけて「殺すぞ」「殴るぞ」と言い合っても、それが脅迫罪になる可能性はほとんどないと考えられます。
一方で、普段から威圧的だったり暴力的だったりする相手が同じことを言えば、相手は本気で生命や身体の危機を感じることでしょう。この場合は脅迫罪が成立する可能性が高くなります。
3、脅迫罪と関連する罪に関して(強要罪・恐喝罪・強盗罪)
脅迫罪と類似している犯罪に、強要罪や恐喝罪、強盗罪といったものがあります。以下で、それらと脅迫罪の違いについて説明します。
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(1)強要罪
脅迫罪との大きな違いは、脅迫等により、義務のないことの強制、権利行使の妨害が必要になる点です。たとえば、「土下座しないとこの店つぶすぞ!」などと言い、相手を脅すことで義務のないこと(この場合、土下座をさせること)を行わせる場合です。強要罪の法定刑は、3年以下の懲役で罰金刑がありません。
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(2)恐喝罪・強盗罪
相手を畏怖させるに足る害悪の告知(脅迫)をしてお金や物を受け取った場合には、恐喝罪が成立する可能性があります。恐喝罪の法定刑は、10年以下の懲役で罰金刑がありません。
また、脅迫の態様が、相手方の反抗を抑圧する程度に至る場合には、強盗罪が成立する可能性があります。強盗罪で有罪になった場合は5年以上の有期懲役に処されます。
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4、脅迫罪で逮捕されたら
もし、自分の言動が脅迫罪に当たると疑われ逮捕されてしまったら、どうすればよいのでしょうか?
ここでは脅迫罪が立件されるケースと、立件後の流れを左右する重要な行動について説明します。
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(1)脅迫罪で起訴されるケース
脅迫罪は親告罪ではありませんが、現実には被害者やその家族からの被害届を受けて、起訴されるケースがほとんどです。
しかし、逮捕されたからといって、必ずしも起訴されるとは限りません。
被害者側が示談に応じたり、被害届を取り下げたりしていれば、不起訴になる可能性が高くなります。 起訴されるケースでも、たとえば令和5年度の「検察統計調査」によると、起訴された702件のうち書面による簡略的な裁判となる「略式命令請求」となったケースは475件あり、多くのケースで罰金刑の言い渡しを受けて釈放されています(ただし前科はつきます)。 -
(2)被害者との示談成立が重要
示談交渉の結果次第では、不起訴処分となったり、その後の刑事事件の流れが大きく変わったりする可能性があります。
とはいえ、脅迫という行為の性質上、被害者が加害者との示談交渉に直接応じてくれる可能性はあまり高くありません。もし加害者が直接交渉しようとした場合、被害者が再び脅迫を受けていると感じてしまう可能性があり、さらに事態が悪化してしまうでしょう。
そこで重要となるのが、弁護士の存在です。弁護士であれば、検察官を通して被害者の連絡先を教えてもらえる場合があります。
また、弁護士であれば、法的な観点から適切な交渉を進めることができます。 -
(3)弁護活動について
起訴・不起訴や量刑についてできるだけ有利な判断してもらうためには、加害者の今後の行動を監視する保護者役の人(家族など)からの「情状証言」が有効です。
また、取り調べ時の供述がコロコロ変わると、捜査担当者の心証を悪くしますし、取り調べで精神が疲弊して、ついやってもないことをやったと言ってしまうと、その後の供述を覆すことが非常に難しくなります。そのため取り調べが始まる前に、できるだけ早い段階で弁護士のアドバイスを受けたほうがよいでしょう。
5、まとめ
怒りやその場の衝動にかられて「つい口走った」言葉が、脅迫罪になってしまうケースは決して少なくありません。なにより重要なのは「自分の言動に十分気をつける」ことです。
万が一、脅迫罪の容疑で警察から連絡がきたり、逮捕されてしまったりすることになったら、できる限り早めに弁護士へ相談されることをおすすめします。深く反省しなるべく早期に事態を解決して社会へ復帰するためには、できるだけ早いタイミングで刑事事件についての知見が豊富な弁護士のアドバイスを受けてください。
ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスでは、脅迫罪で逮捕されてしまった方やそのご家族からのご相談を受け付けております。お気軽にご相談ください。
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