未成年の子どもが募金詐欺で逮捕されたら、家族はどうすればいい?
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群馬県警の公表する刑法犯の認知・検挙状況(警察署別・包括罪種別)によれば、令和元年中の高崎警察署における刑法犯の認知件数は2079件です。このうち詐欺を始めとする知能犯の認知件数は150件であり、前年よりも10.9ポイントも増加しています。近年は被害者と加害者が対面しないタイプの特殊詐欺が多くなっていますが、対面による詐欺事件がなくなったわけではありません。
本コラムでは、あなたのお子さまが「募金詐欺」の容疑者として逮捕された場合の対処法や、注意点について、高崎オフィスの弁護士が解説します。
1、悪質性の高い募金詐欺
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(1)募金詐欺とは
難病患者や難民、被災者などの支援を目的とした募金活動を目にすることは珍しくありません。「赤い羽根募金」や「あしなが学生募金」といった名称や活動を見聞きしたことのある方も多いでしょう。しかし、募金をする際に活動団体や主宰者の身元まで逐一確認する方はあまりいないようです。
そこで、こうした善意につけ込み、最初から困窮者へ金銭を渡す意思がなく、ただお金だけを集めるために募金活動が行われることがあります。これを募金詐欺と呼びます。 -
(2)募金詐欺の典型的なパターン
募金詐欺を対面で行う主なパターンに、街頭募金と戸別訪問募金があります。
街頭募金は人通りの多い街頭で寄付を募るもので、不特定多数の通行人を対象とします。その性質上、顔や活動内容をじっくり確認されにくいため、詐欺が成功しやすい傾向があります。積極的に相手を騙しているわけではないので比較的罪悪感が小さいのも特徴のひとつです。戸別訪問募金は住宅を個別に訪ねて寄付を募るもので、街頭募金に比べてターゲットが絞られます。
その他、非対面型の募金詐欺として口座振り込み募金が挙げられます。これはホームページやダイレクトメールを用いて詐欺用の口座に金銭を振り込ませるもので、顔をさらすリスクがない募金詐欺です。 -
(3)募金詐欺の刑罰
募金詐欺罪という罪は存在しません。しかし、募金詐欺と分類されるいずれの手口を用いたとしても、刑法に規定されている詐欺罪(第246条)として処罰を受けることになります。
成人(満20歳以上)であれば、人を騙して金品などの財物を渡させた場合、10年以下の懲役となります。また、財産的な利益を犯人自身が得たときや他人に得させたときも同様に、10年以下の懲役刑が科されます。
他方、犯人が未成年の場合は、少年事件と呼ばれ、刑法ではなく少年法に基づいた処分を受けることになります。そのため、逮捕後の取り扱いの一部や処分内容が成人と異なるのです。以下で詳しく解説します。
2、未成年が募金詐欺で逮捕されたら
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(1)逮捕された子どもはどうなるか?
まず、14歳未満の子どもは逮捕されません。しかし、家庭裁判所の審判に付するとされています(少年法第3条)。
他方、14歳以上20歳未満の子どもが逮捕された場合は、検察での取り調べまでは成人と同じ過程をたどります。具体的には、逮捕されると48時間を上限とする警察での取り調べを受け、検察に送られた(送致)場合は、さらに24時間の取り調べを受けます。その上でまだ取り調べの必要があると判断されると、原則10日、最長で20日間の身柄拘束を受けます。ただし少年事件の場合、原則としてすべての事件を家庭裁判所に送致する運用となっていることから、最長20日間の勾留後、家庭裁判所において、観護措置を行うか否か判断します。裁判官が観護措置が必要と判断した場合は、さらに最長で8週間程度、少年鑑別所に収容され、調査を受けます。場合によっては、勾留に代わる観護措置と呼ばれる、勾留中に少年鑑別所などへ収容される措置が取られることがあるでしょう。勾留に代わる観護措置となった場合は、10日間身柄の拘束を受けることになります。 -
(2)家庭裁判所での少年審判と処分
検察での取り調べ後、未成年は家庭裁判所へ送られて再度調査されます。さらに観護措置として少年鑑別所に送致・収容されることもあれば、そのまま身柄解放となることもあるでしょう。どちらになるかは、犯した罪の内容や家庭環境などによって異なります。
その後、家庭裁判所が審判の必要性を認めた場合は、少年審判が行われます。少年審判とは、少年の更生を目的に、刑法を犯した少年を審理し、その処分を決定する手続きを指します。
審判の結果、保護観察、児童自立支援施設や少年院などへの送致など、いずれかの保護処分を受けることになります。しかし、殺人などの重大な罪を犯しているときは、検察官へ送致されて刑事裁判によって裁かれます(逆送と呼ばれます)。もちろん、処分しなくても更生が十分期待できる場合は、不処分とされることもあるでしょう。
3、逮捕された子どもの家族が取るべき対処法
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(1)子どもの心のケアを優先的に
逮捕されてから警察・検察での取り調べが行われる72時間は、原則、家族であっても本人との面会は認められません。この点は、成人が犯した場合でも、14歳以上の未成年者であっても同じです。この間に面会を行ったり、家族からのメッセージを伝えたりできる者は、弁護士のみに限られます。
また、身柄が拘束される期間は、勾留の延長期間も含めると最長で23日間、観護措置がなされると更に最大2か月程度にも及ぶ場合があります。周囲に味方のいない状況で警察や検察で被疑者として扱われるため、独りで対応を迫られる未成年の子どもの精神的負担は相当大きなものとなるでしょう。
そこで、ご家族がお子さまをサポートできる方法のひとつとして、逮捕された直後から被疑者に面会することの可能な弁護士にさまざまな面からのサポートを依頼することが挙げられます。
弁護士の役割には、取り調べに対する受け答えについて助言するといった法的なサポートだけでなく、独りで不安を抱える子どもの精神的な支えになることも含まれます。特に逮捕されたのが未成年者である場合、家族が更生を願っていることを伝えるためにもなるべく早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)私選弁護人で手厚いサポートを
弁護士には、国が選ぶ「国選弁護人」と、被疑者・被告人や保護者が自分で選べる「私選弁護人」がいます。国選弁護人は、弁護士に依頼する経済的余裕がない方のために、弁護を受ける権利の保障として最小限の出費で依頼できる弁護士のことです。ただし、原則として勾留決定後に選任されるため、子どもがもっともサポートを必要とする逮捕直後に活動を依頼できないなどの問題があります。
なお、逮捕直後には当番弁護士と話をすることはできます。しかし、接見の回数は1回に限られ、事件の流れなどを説明するなどの活動にとどまります。弁護活動を依頼する場合は、別途依頼する必要があるということです。
他方、少年事件に詳しい私選弁護人を選ぶという選択肢があります。依頼するのに多少の費用はかかりますが、手厚いサポートを受けることができるでしょう。特に詐欺の被害者との示談をまとめてもらうことができれば、処分が軽減される可能性もあります。身柄拘束期間が長期にわたらないように法的手続きを依頼したり、学校や職場などに対して寛大な対応をしてもらうよう依頼したりすることも可能です。少年審判の際も、付添人として少年自身に寄り添い、力を尽くします。
また、逮捕された方が成人している場合においても、私選弁護人は、重すぎる刑罰が科されないように弁護活動を行います。ご家族にとっても、安心にもつながるのではないでしょうか。
4、まとめ
今回は、募金詐欺で未成年の子どもが逮捕された場合の対処法を中心に解説しました。募金詐欺は人の善意を利用する犯罪であり、許されるものではありません。しかし、罪を犯したのが未成年の子どもであった場合、教育や精神的なケアによって更生してくれることを期待したいものです。
子どもが逮捕されたときには、ご家族の方は身柄拘束からの早期解放を目指しつつ、まずは子どもの心のケアや社会的なフォローを考えてあげてください。子どもが募金詐欺に関係してしまったとお悩みであれば、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスでご相談ください。刑事事件や少年事件についての知見が豊富な弁護士が親身に対応します。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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