労災は業務による持病の悪化でも適用される? 申請を進める方法
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業務上の原因によって病気に罹った場合、労災(労働災害)として労災保険給付を受給できます。群馬労働局によると、令和3年の労働者死傷病報告受理件数は全2735件で、そのうち494件が高崎労働基準監督署管轄内で起きています。
業務上の原因のみによって発病した場合に限らず、持病の悪化によって発病した場合についても、労災保険給付の対象となる可能性があります。「持病の悪化だからだめだ」と即断せずに、準備を整えて労災保険給付を請求しましょう。
本コラムでは、業務によって持病が悪化した場合における労災認定の可否や、持病の悪化について労災認定をしてもらうためにできることなどを、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和3年 労働者死傷病報告受理件数表」(群馬労働局))
1、業務により持病が悪化した場合、労災認定されるのか?
元々健康だった人が、過労や業務上の過度なストレスなどが原因で病気になった場合、労災認定がなされるのはわかりやすいところです。
これに対して、元々持病を患っている人について、業務が原因で持病が悪化したという場合は、労災認定がなされるかどうか必ずしも明らかではありません。業務が原因で発病したと見ることもできるものの、持病というその人が本来持っていた「素因」が原因で発病したとも評価し得るからです。
労災保険上の給付の対象となる、業務上の事由によって生じた負傷、疾病、傷害又は死亡を業務災害といいますが、業務によって持病が悪化した場合、業務災害として労災認定されることはあるのでしょうか?
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(1)持病などの素因があっても、業務災害は認定され得る
結論としては、持病などの素因があっても、業務災害として労災認定を受けられることはあります。
業務災害の要件は、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つです。(a)業務遂行性
労働者の疾病などが、使用者の支配下にある状態で発生したこと
(b)業務起因性
使用者の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験法則上認められる場合、すなわち労働者の疾病などと業務の間に相当因果関係があること
持病が悪化して発病した場合でも、発病に業務上の原因が作用しているのであれば、業務遂行性と業務起因性の要件を満たす可能性があります。
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(2)判断基準|発病の原因として、素因と業務のどちらが有力か
判例に照らせば、持病などの素因と、業務上の事由が発病の原因として競合している場合、業務が疾病を増悪させる共働原因となっていること、および、素因よりも業務が相対的に有力な原因であることが認められれば、業務災害として労災認定を受けられる可能性が高いです。
これに対して、明らかに素因が大きな影響を与えて発病した場合や、業務上の事由がなくても発病したであろうと考えられる場合には、業務災害として労災認定を受けることは困難といえます。 -
(3)労災認定される可能性が高い持病の悪化事例
持病が悪化して発病したケースのうち、たとえば以下のような場合であれば、労災認定を受けられる可能性が高いと考えられます。
- 持病が短期間において急激に悪化し、その期間中に過剰な長時間労働が行われた場合
- 持病が短期間において急激に悪化し、その期間中に悪質なハラスメントを受けていた場合
2、持病の悪化でも労災保険給付を請求すべき
持病の悪化について労災認定を受けられるかどうかは、事案によって判断が分かれるところです。確実に認められるとはいえない一方で、労災認定を受けられる可能性も十分にあります。
たしかに持病の悪化は、本人の素因によるところが少なからずあるため、通常の労災事故よりは労災認定を受けにくい傾向にあります。しかし、業務の過程で身体的・精神的に大きな負担がかかった事実があり、それをきちんと説明できるのであれば、労災認定を諦める必要はありません。
業務をきっかけとした持病の悪化についても、次の項目で紹介する方法によって、受給可能な労災保険給付を漏れなく請求しましょう。
3、労災保険給付の請求方法
労災保険給付にはさまざまな種類あり、それぞれ受給要件や金額などが異なります。しかし、大半の労災保険給付については、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署で請求手続きを行います。
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(1)労災保険給付の種類
労災保険給付には、以下の種類があります。各給付の受給要件を確認して、該当するものは確実に請求を行いましょう。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 障害(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料・葬祭給付
- 傷病(補償)年金
- 介護(補償)給付
- 二次健康診断等給付
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(2)療養の給付|労災病院等を経由して手続きを行う
労災病院や労災保険指定医療機関では、労災による病気の治療を無料で受けることができます。これを「療養の給付」といいます。
療養の給付については、受診した労災病院や労災保険指定医療機関を経由して請求を行います。 -
(3)それ以外の給付|労働基準監督署に対して請求する
療養の給付以外の労災保険給付については、いずれも労働基準監督署に対して請求を行います。請求書の様式は、以下のウェブサイトまたは労働基準監督署の窓口で入手可能です。
(参考:「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省))
なお、傷病(補償)給付については、療養開始から1年6か月の経過以降、給付が開始されます(その反面、休業(補償)給付が打ち切られます)。 -
(4)労災補償ではカバーできない部分は会社に対して請求できる可能性がある
労災保険から支払われる給付金は、最低限のラインまでしか補償されません。たとえば、休業給付は4日目以降分からしか支払われないため、3日分は有給休暇を使うなどの対応が必要となります。
しかし、持病の悪化が会社に原因があり、労災が認定された場合は、会社に対して損害賠償請求をすることができる可能性があります。具体的には、長時間労働が常態化していた、不調を訴え部署異動を求めたにもかかわらず対応されなかったなどのケースが考えられるでしょう。
もし、会社に対する損害賠償請求を検討するのであれば、まずは弁護士に相談することをおすすめします。個人で対応する場合、法的根拠を持った交渉が難しいためです。弁護士に相談することで、会社に対する損害賠償請求ができる可能性があるかどうかから、適切な証拠の集め方、対応方法までアドバイスすることができます。
対応を依頼すれば、訴訟を視野に入れた交渉を行えるため、個人で交渉を続けるよりも適切な損害賠償金を請求できる可能性が高まります。
4、持病の悪化を労災認定してもらうためにできること
持病の悪化について労災認定を受けるためには、請求書の記載内容が重要になります。もし不本意に労災保険給付が不支給とされた場合は、不支給処分の取り消しを求めて不服申立てを行いましょう。
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(1)労災の原因・発生状況・就労状況などを詳しく記載する
労災保険給付の請求書には、労災の原因・発生状況・就労状況などを記載する欄があります。
通常の労災事故でも、これらの背景事情は詳しく書くべきですが、持病が悪化したケースでは、その記載内容がさらに重要な意味を持ちます。 -
(2)認められなければ不服申立てを行う
労災認定を受けられなかった場合や、その他認定結果に不満がある場合には、労働者災害補償保険審査官に対する審査請求を行うことができます(労働者災害補償保険法38条1項)。
審査請求の期限は、不支給決定などがあったことを知った日の翌日から3か月後です。
審査請求を受理した審査官は、不支給処分が違法または不当であれば処分を取り消して新たに処分を行います。
審査官の決定に不服がある場合や、審査請求後3か月を経過しても審査官による決定が行われない場合などには、再審査請求を行うことができます。
また、審査請求に関する決定が行われた後は、裁判所に「取消訴訟」を提起して、不支給処分の取り消しを求めることができます(同法第40条、行政事件訴訟法第8条)。
取消訴訟の出訴期間は原則として、不支給決定があったことを知った日から6か月です(行政事件訴訟法14条1項)。
持病の悪化が労災認定されずに納得できない場合は、積極的に不服申立てをご検討ください。
5、まとめ
業務がきっかけで持病が悪化したことについて、労災保険給付を受けられるかどうかはケース・バイ・ケースです。類似の病名であっても、それぞれの状況に応じて判断されるため、労災認定がされるケースもあれば、認められない可能性もあります。
持病などの素因が、業務よりも発病に大きく影響したと認められれば、業務災害として労災認定の対象となります。業務災害該当性の判断は微妙になりやすいですが、労災保険給付を受けられる可能性は十分あります。各給付の認定基準を確認した上で、諦めずに労働基準監督署の窓口へ相談しましょう。
さらに、労災の被害に遭った場合には、労災保険給付の受給に加えて、会社に対する損害賠償も検討すべきです。ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスでは、労災に関する損害賠償請求のご相談を随時受け付けております。親身になって対応しますので、労災認定が下りた時点でお気軽にご相談ください。
労災の取り扱いや、会社に対する請求についてわからないことがあれば、お気軽にベリーベスト法律事務所へご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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