離婚前に多額の預金を引き出されたときの財産の取り扱いと対処法
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高崎市が公表している「統計季報」によると、令和3年の高崎市内での離婚件数は、593件でした。令和元年や2年も離婚件数は500件台となっており、この統計からは、毎年一定数の夫婦が離婚という決断をしていることがわかります。
離婚を決める前、多くの夫婦はまず話し合いを行います。しかし、その最中にもかかわらず、相手が勝手に銀行口座から多額の預金を引き出してしまうというトラブルが起こりえます。相手としては、「自分の口座からお金をおろしただけ」「自分が働いて貯めたお金だから問題ない」などの理由をつけて正当化することがありますが、このような主張は認められるのでしょうか。
身勝手な預金の引き出しが認められてしまうと、離婚時にもらうことができる財産が減ってしまう事態にもなりかねません。これから離婚を考えている方にとって、財産の取り扱いは非常に重要な問題です。今回は、離婚前に多額の預金を口座から引き出された場合の取り扱いと対処法について、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説します。
1、引き出された預金が特有財産だった場合
金銭や不動産、権利など、財産と呼ばれるものにはいくつか種類があります。それら財産の形成時期や形成方法により、夫婦の財産は「特有財産」と「共有財産」の2つに振り分けすることが可能です。
まず、相手が引き出した預金が特有財産にあたる場合には、どのような対応になるのでしょうか。以下では、特有財産の概要と特有財産である預金が引き出された場合の対応について説明します。
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(1)特有財産とは
特有財産とは、夫婦の一方が婚姻前から所有している財産や、婚姻中であっても夫婦の協力関係とは無関係に取得した財産のことをいいます。
特有財産に該当する具体例としては、以下のものが挙げられます。- 結婚前に貯めていた預貯金
- 親からの相続によって取得した相続財産(現金や不動産など)
- 退職金のうち、結婚前の就労期間に対応する部分
- 第三者から贈与された現金
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(2)引き出された預金が特有財産だった場合の扱い
特有財産は、基本的には当該財産の名義人が自由に処分することができ、離婚時の財産分与の対象外となる財産です。そのため、引き出された預金が相手の特有財産である場合には、その返還を求めることができません。
反対に、相手が引き出した預金があなたの特有財産にあたる場合には、相手にはそれを引き出して利用処分する権限がないということになります。そのため、不法行為または不当利得を理由として、相手に対して返還を求めることが可能です。
このように、引き出された預貯金の返還を求めることができるかどうかは、引き出された預貯金が誰の特有財産にあたるかが重要になります。その際には、当該預貯金口座の名義がどちらであるかだけでなく、預金の原資がどのように形成されたかというような経緯なども踏まえて判断することが大切です。
口座の名義については、たとえば妻が両親からもらったお金を夫名義の口座に入金して保管しているケースもあるでしょう。この場合、両親(第三者)から贈与された金銭であることを証明できれば、夫名義の預金口座であるものの、その原資は妻の特有財産によって形成されていると捉えることが可能です。つまり、妻の特有財産に該当するといえます。
第三者から贈与されたことの立証方法の一例としては、贈与契約書や口座での取引・残高などによる証明が必要になります。もし証明することができなかった場合、特有財産として扱われない可能性が高いため、注意しましょう。
2、引き出された預金が夫婦の共有財産だった場合
相手が引き出した預金が夫婦の共有財産にあたる場合には、どのような対応が必要となるのでしょうか。以下では、共有財産の概要と共有財産である預金が引き出された場合の対応について説明します。
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(1)共有財産とは
共有財産とは、婚姻期間中に夫婦が協力しながら形成・維持してきた財産のことです。
共有財産に該当するかどうかは、当該財産の名義が夫婦どちらのものであるかという点ではなく、夫婦の協力によって形成・維持してきたものであるかという実質面で判断することになります。
たとえば、婚姻後に夫が稼いだ給料で原資が形成された夫名義の預貯金口座は、夫婦の協力によって形成・維持されてきた財産と考えることになるため、共有財産の扱いです。 -
(2)引き出された預金が共有財産だった場合の扱い
もし夫婦の共有財産である預金が相手に引き出された場合には、その返還を求めることができるのでしょうか。
実は、夫婦の共有財産の場合、双方に財産を利用処分する権利が認められます。つまり、夫婦の一方が勝手に預金を引き出したとしても、その金銭の返還を求めることは原則としてできません。
そうなると、勝手に預金を引き出してしまった方が有利になると感じる方もいるでしょう。しかし、この件に関しては、後述するような財産分与という制度で考慮されるため、不都合な事態にはならない可能性が高いです。
3、共有財産だった場合は、財産分与に影響することも
共有財産である預金を勝手に引き出されたとしても、財産分与の制度で考慮してもらうことができます。
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(1)財産分与とは
財産分与とは、離婚時に夫婦の共有財産を清算する制度のことです。
この清算の対象となるのは、夫婦が協力して形成・維持した共有財産の部分に限られます。
また、財産分与の割合は原則2分の1となります。これは、婚姻生活において夫と妻の財産維持・形成への貢献度は基本的には等しいものと考えられているからです。
妻が専業主婦であったとしても、家事や育児によって財産維持・形成に貢献をしているため、この場合でも財産分与の割合は原則2分の1となります。 -
(2)別居日以降に引き出された預貯金は財産分与の対象に含まれる
先に述べたように、財産分与は夫婦の協力によって形成・維持してきた財産を、離婚の際に清算するという制度です。この清算対象となる財産は、夫婦の協力関係が一応終了した時点である「別居時」が基準時となります。
そのため、基準時である別居日以降に相手が勝手に財産を引き出したとしても、財産分与においては、当該財産は存在するもの(=引き出されていないもの)として扱われるのが基本です。
たとえば、夫婦の共有財産として1000万円の預金がある場合において、別居日以降に夫が勝手に400万円を引き出したとします。この場合の財産分与は、引き出し後の600万円を対象にするのではなく、別居時に存在した1000万円を対象とするため、夫が500万円、妻が500万円の財産分与を受けることが可能です。
夫はすでに400万円を引き出しているこのケースでは、残った預貯金から夫が100万円を受け取るということで調整を行います。 -
(3)別居日前の引き出しについては、使途次第で財産分与の対象になる
別居前に預金の引き出しがなされたという場合には、基準時前の引き出しであるため、財産分与にあたっては、原則として考慮されません。
しかし、別居直前に多額の預貯金を引き出した場合には、別居時点においては、現金としてほぼ同額の資産が残っているのが通常です。そのため、財産分与においては、引き出された分は現金として考慮するということもできます。
ただ、相手から「引き出した預金はすべて使ってしまい、別居時には存在していない」との反論がなされることがあります。この場合には、どのような使途で使ったのかについて、相手に対して説明を求めることが大切です。
この際、夫婦の共有財産である預金であれば、夫婦の生活に必要な支出に充てられる限り、正当な出費といえます。たとえば、別居時の引っ越し費用や当面の生活費として使ったという場合には、相手の反論も一応合理的なものといえるでしょう。
しかし、引き出した預金が多額であった場合には、短期間にすべて使い切ってしまったということは通常考えられません。相手に対して詳しい使途の説明を求めれば、説明のつかないお金が出てくるはずです。
そのようなお金があると判明した場合には、相当額が存在していると扱って財産分与の対象に含めることができる可能性があります。
4、話し合いがこじれた場合の対処法
夫婦間で離婚の協議が上手く進まなくなってしまった場合には、以下のような対処をとることが必要です。
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(1)離婚調停・裁判
離婚前の預金の引き出し問題は、基本的には財産分与の問題となるため、夫婦での話し合いによる解決を目指します。しかし、この方法では離婚するための条件について合意を得ることが難しいケースも少なくありません。
このような場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることを考えましょう。離婚調停も基本的には話し合いの手続きですが、裁判所の調停委員が夫婦の間に入るため、夫婦だけで話し合いをするよりもスムーズな解決が期待できます。
ただし、離婚調停は夫婦の双方が離婚条件に合意しなければなりません。どちらか一方が自分の考えに固執しているような際には、調停で結論を出すことが難しい場合があります。そういう時には、最終的に離婚裁判での解決を図ることになります。 -
(2)弁護士への相談
離婚問題でお悩みの方は、弁護士に相談することがおすすめです。
相談のタイミングとしては、特に決まりはなく、悩みがあればすぐに相談をしても問題ありません。話し合いの段階から弁護士に相談をすることによって、問題が複雑化する前に解決することができる場合もありますので、早めの相談が大切です。
また、弁護士であれば、本人に代わって相手と交渉をすることができます。そのため、直接相手と話し合いをしなければならないということが負担に感じている場合には、弁護士に依頼をすることも有効な手段です。
さらに、弁護士に依頼をすることによって、ご自身で交渉をするよりも適切な条件で離婚をすることができる可能性が高くなりますし、面倒な離婚調停や裁判の手続きもすべて任せることが可能です。
離婚にあたって少しでも不安がある場合には、まずは弁護士にご相談ください。
5、まとめ
離婚前に多額の預金を引き出されたという場合には、財産の性質や引き出された時期、引き出された預金の使途などによって具体的な対応が異なってきます。大切なお金を取り戻したり、適切に離婚を進めたりするためにも、まずは弁護士への相談をおすすめします。
離婚問題でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています