「暴言」は犯罪になる? 問える罪や被害を受けた場合に取るべき行動
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心ない暴言は、投げかけられた人に深い傷を負わせてしまうことはご存じのとおりです。
令和2年10月、群馬県内で技能実習生として働く女性が、実習先で日常的に暴力や暴言を受け解雇されていたことが総合サポートユニオンを通じて公表されました。同年12月には、当該実習生は新たな実習先を得て未払いとなっていた残業代も受け取れたことが報告されています。
暴言を投げかける行為は、モラル違反となるだけでなく、状況次第では刑罰法令に触れる犯罪が成立することがあります。本コラムでは「暴言」について、どのような犯罪に問われるのか、暴言を投げかけられた場合にはどのように対処すればよいのかなどを、高崎オフィスの弁護士が解説します。
1、どこからが「暴言」になるのか?
日常的なトラブルのなかで「暴言」が問題となるケースは少なくないでしょう。ここでは、暴言とはどのようなものを指すのか、暴言によってどのようなトラブルが起きるのかを確認します。
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(1)「暴言」とは
「暴言」という用語を辞書で調べると、次のような意味で説明されています。
- 礼を失した乱暴な言葉
- 無茶な発言
- 言ってはならない発言
頭のなかではぼんやりとしたイメージをもつことはできるかもしれませんが、法律などによる明確な定義はありません。どこからが暴言となり、どこまでは暴言にならないのかは、発言の内容やそのときの状況によって判断されるでしょう。
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(2)暴言が引き起こすトラブル
暴言は、さまざまなトラブルを引き起こします。
学校であれば、学校教諭が生徒に暴言を投げかけてトラブルに発展するケースや、その反対に生徒が学校教諭に暴言を投げかけることで学級崩壊を引き起こすこともあります。
職場などでは、業務上の優越的な関係を利用した不快な発言があればパワーハラスメント(パワハラ)に、性的な嫌悪を感じさせる暴言があればセクシャルハラスメント(セクハラ)になるでしょう。
妊娠・出産・育児などを理由とした暴言はマタニティハラスメント(マタハラ)、介護を理由とした暴言はケアハラスメント(ケアハラ)と呼ばれます。飲酒会合の席で無理な飲酒を強いるような暴言があればアルコールハラスメント(アルハラ)にもなりえます。
店舗の店員などへ行われるクレームであっても、執拗かつ悪質なケースは、カスタマーハラスメント(カスハラ)と呼ばれています。
また、最近ではインターネット上で行われる暴言や誹謗中傷投稿についても社会問題となっています。
2、「暴言」は犯罪になる!問われる罪と刑罰
暴言は、さまざまなハラスメントなどの原因になると同時に、発言の内容や発言が投げかけられた状況によっては犯罪になることがあります。
ここでは、暴言が犯罪になる場合の罪名や刑罰を解説しましょう。
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(1)軽犯罪法違反
さまざまな秩序違反行為を罰するのが「軽犯罪法」です。
軽犯罪法第1条では、33の行為を処罰の対象としています。公共の施設や乗り物において、入場者やほかの乗客などに対し、著しく粗野または乱暴な言動で迷惑をかける行為には、同条5号の違反として拘留または科料が科せられます。
飲食店でほかの客に暴言を投げかける、電車などの乗り物内でほかの乗客に言いがかりをつけるなどの行為は、軽犯罪法違反となりえるでしょう。 -
(2)侮辱罪
事実を摘示せず公然と人を侮辱すると、刑法第231条の「侮辱罪」が成立します。
「事実の摘示」とは、具体的な事実を指すことをいいますが、ここでいう事実とは「真実」という意味ではありません。事実とは、挙げられた事項について真偽を確認できることをいいます。事実を確認できない抽象的な暴言は「事実を摘示しない」といえるでしょう。
「公然」とは、不特定または多数の人が知ることのできる状況をいいます。
たとえば、多くの人の前で「バカ」「ブス」などのように、明確な評価基準のない暴言を投げかける行為は侮辱罪に問われるでしょう。
法定刑は、令和4年7月6日の行為までは拘留または科料が適用されます。ただし、インターネット上の誹謗中傷が社会問題化したことから令和4年の刑法など法改正により厳罰化されました。令和4年7月7日以降の行為に対する法定刑は、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料となっています。 -
(3)名誉毀損罪
公然と事実を摘示することで人の名誉を毀損(きそん)すると、刑法第230条の「名誉毀損罪」になりえます。
侮辱罪とは違い、事実の摘示があったとしても相手の社会的評価を低下させれば成立する犯罪です。「会社のお金を横領している」「不倫をしている」などの秘密を暴露するような暴言は、名誉毀損罪に問われるでしょう。
また、名誉毀損罪においては、摘示した事実の真偽は問われません。根も葉もないデマでも、その真偽を確認できる内容であれば「事実」とみなされます。
法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。 -
(4)脅迫罪
人の生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を告げる内容の暴言は、刑法第222条の「脅迫罪」に問われる可能性があります。
「殺すぞ」「家に火をつけるぞ」などの暴言は「害悪の告知」にあたるため、刑法によって厳重に処罰されえるでしょう。
法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。 -
(5)恐喝罪
暴言に加えて、相手から金品を脅し取れば刑法第249条の「恐喝罪」が成立します。
「お金を渡さないと痛い目に遭わせるぞ」などと脅せば恐喝罪の成立は避けられないでしょう。
法定刑は10年以下の懲役で、罰金刑の規定はありません。 -
(6)強要罪
脅迫にあたる暴言を投げかけたうえで、相手に義務のない行為をさせた場合は刑法第223条の「強要罪」に問われえます。
店舗の利用客が行き過ぎたクレームに加えて「土下座をして謝罪しろ」などと要求するといったケースが考えられるでしょう。
法定刑は3年以下の懲役です。 -
(7)威力業務妨害罪
暴言によって他人の業務を妨害すると、刑法第234条の「威力業務妨害罪」が成立します。
行き過ぎたクレームによって店舗の営業活動を妨害するなどのケースが想定されるでしょう。
3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
3、暴言を投げかけて逮捕されるケース
他人に対する暴言が理由で警察沙汰になり、暴言を投げかけた加害者が逮捕されることがあります。
ここでは、逮捕の可能性があるケースについて見ていきましょう。
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(1)役所などで暴言を投げかける行為
飲食店などの一般店舗で暴言を投げかけて営業を妨害すれば威力業務妨害罪が成立する可能性があることは前述のとおりです。ただし、その場所が役所などの公的機関であれば、刑法第95条の「公務執行妨害罪」に問われることがあります。
公務執行妨害罪は、公務員の職務執行に対して暴行・脅迫を加えた場合に成立する犯罪です。
単に役所の職員に対して暴言を投げかけただけで公務執行妨害罪が適用されるわけではありません。大声で叫ぶ、カウンターを叩くなどの迷惑行為があれば、警察が出動して逮捕に至る可能性もあるでしょう。
役所のほか、警察や消防、公立の学校や病院、図書館などの職員も公務員にあたるので、暴言に加えて迷惑行為があれば公務執行妨害罪が成立します。委託を受けて駐車違反を取り締まる駐車監視員など「みなし公務員」が相手となった場合でも同様です。 -
(2)実害を伴う悪質な暴言を投げかける行為
単に「失礼な発言」「言ってはならない発言」を投げかけられたからといっても、直ちに犯罪として事件化してもらえるわけではありません。
ただし、心理的な不快を感じるだけでなく、実害を伴うような悪質な暴言であれば、警察が動き出して逮捕に踏み切る可能性もあるでしょう。
たとえば、- 暴言を吐き散らして大騒ぎをし、周囲の人に迷惑を感じさせた
- 暴言によって社会的信用の失墜を招いた
- 暴言とともに脅迫・恐喝などの被害を受けた
等が挙げられるでしょう。
これらの悪質性が高いケースでは、被害届や告訴を受理した警察が積極的に捜査を進めて加害者を逮捕する可能性があります。
4、暴言を受けた場合に取るべき行動
暴言を投げかけられたときに取るべき行動を解説します。
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(1)軽度の暴言なら無視して受け流す
暴言の程度が軽く、単に不快を感じさせられた程度で実害がなければ、相手にせず無視して受け流すほうが得策かもしれません。
トラブルの相手は、暴言を投げかけることで挑発したり反応を面白がったりしています。相手の期待どおりに挑発に乗ってしまうと、口論から暴行沙汰に発展してしまうおそれもあるでしょう。暴言によって精神的にダメージを負っている様子をみれば、面白がって被害がさらにエスカレートしてしまうこともあります。
暴言の被害がやまない場合、まずは録音などをして証拠を集めておきましょう。そのうえで、職場であれば上司や相談窓口に、学校であれば主任教師やメンタルヘルスの窓口などに相談してアドバイスやサポートを求めることで解決が期待できます。 -
(2)ハラスメントにあたる暴言は民事的な方法で解決する
暴言がパワハラやセクハラなどに該当する場合は、精神的苦痛を受けたことを理由として、相手に損害賠償を請求することも可能です。職場などにおいては、ハラスメントにあたる暴言があった事実を教訓とした環境改善につながる可能性もあるでしょう。
暴言を理由に損害賠償を請求するには、暴言が存在したという証拠が必要です。また、どの程度の請求が適当であるかの判断によって大きく結果が変わることになります。
暴言を発する加害者との交渉は非常に難しいものです。さらに裁判所への手続きなどには煩雑な点が多いため、個人では対応が不完全なものとなってしまい、結果的に自体がプラスにならないことも起こりえます。訴訟を視野に入れているのであれば、当初の段階から弁護士を依頼してサポートしてもらうことをおすすめします。 -
(3)刑事事件にあたる暴言は処罰を求める
実害につながる悪質な暴言を受けた場合は、犯罪事件として加害者の処罰を求めることを検討する方法もひとつの選択肢です。刑事事件に発展すれば加害者の反省を促す機会となり、その後の被害に対する抑止力となることもあります。
とはいえ、暴言がどのような犯罪にあたるのか、警察が刑事事件として扱うためにはどのような証拠が必要なのかといった点は、個人では判断がつきにくいものです。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士に相談してサポートを求めることも一案となりえます。
また、暴言が犯罪となるケースのなかには、侮辱罪や名誉毀損罪のように被害者の告訴を要する「親告罪」に分類されるものがあります。警察の捜査を発動するには告訴状の提出を要しますが、個人で告訴状を作成することは難しいものです。弁護士に相談すれば、告訴状の作成も依頼できます。
5、まとめ
心ない暴言を投げかけられてしまうと、精神的なダメージを負うだけでなく、会社や学校に居づらくなる事態にも発展します。軽度の暴言は無視して受け流すことができても、刑法などに定められた犯罪にあたる内容や状況であれば、厳正に対処するべきでしょう。
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