介護事故は施設に損害賠償を請求できる? 高崎オフィスの弁護士が解説
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高崎市のホームページでは、介護現場で事故が発生した際の報告書様式を掲載し、事故発生時の速やかな報告を促しています。このように行政が体制を整えて指導をしているということは、それだけ介護事故の起きる可能性が高いことを意味しています。
介護現場における事故は、要介護者の身体機能が低下しているため重篤な事態を引き起こすこともあり、不幸にして死亡事故に発展するケースも存在します。もし、あなたのご家族が介護施設内で怪我をしてしまったとすれば、なぜ事故が防げなかったのか、まずは施設の対応に疑問を持ってしまうかもしれません。適切な介護がなされていたのか、安全管理は十分であったのか、誠実な対応をしてくれたのか、その実情によっては、慰謝料を請求したいと考えることがあるはずです。
そこで本コラムでは、介護施設で発生した事故における慰謝料や損害賠償の請求について、解説します。
1、介護施設で起こる事故
公益財団法人 介護労働安定センターが平成30年3月に公表した「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」という報告書によると、利用者にけがをさせてしまう事故(人身事故)のうち、約84.5%が「転倒・転落・滑落」による事故であると報告されています。他にも、「誤嚥、誤飲」等の事故が発生しています。
2、介護施設側の損害賠償責任を認めた事例
ここでは、実際に介護施設側の責任を認めて損害賠償が命じられた裁判例を紹介します。あくまで一例であり、事件の詳細によって判決内容は大きく異なる点に注意が必要です。
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(1)転落事故
介護老人施設に入所中であった女性が、ベッド上から転落転倒し、意識障害に陥ったまま、約11か月後に死亡した事案です。(前橋地裁平成25年12月19日判決(事件番号平成24年(ワ)第264号))
裁判所は、施設側が、過去に利用者が別の病院でベッド柵を乗り越えたことがあること、利用者が高度の認知症およびうつ状態にあったことを把握していたと認定しました。そのうえで、転落の危険性が認められる利用者に対して、畳対応にするとむしろ壁に頭をぶつけるなどの危険があるとしてベッド対応に変更したものの、利用者がベッドから転落転倒する危険を予見すべきであり、ベッド対応に変更したこと自体が重大な注意義務違反はあったと認定しました。そして、ベッド対応とした以上は、利用者の転落防止措置を講ずべき義務があったにもかかわらず、ベッドの下に衝撃吸収マットを敷くなどの転落防止措置を講じていなかったと認定しました。 -
(2)誤嚥事故
介護施設において、利用者が、居室で提供された朝食をとっていたところ、施設から提供されたロールパンを誤嚥し、窒息死した事案です。(大阪高裁平成25年5月22日判決(事件番号平成24年(ネ)第1537号))
一審の地裁判決では「誤嚥の危険性を予見するのは困難だった」として請求が棄却されました。しかし、控訴後の高裁判決では「診療情報や看護サマリーなどから誤嚥は予見できた」とされ、請求の一部が認められています。
この事例では、誤嚥が予想される利用者に対して、頻繁に見守りを行う、ナースコールを手元に配置するなどの対策がなかった点について安全配慮を欠いていたと判断されました。 -
(3)損害賠償請求ができるケースとは
本コラムで取り上げた事例はいずれも、ある程度事故を予見できたにもかかわらず、適切な対応が取られていなかったために事故が発生したことが認められたケースです。安全配慮義務違反や注意義務違反があったとして、損害賠償を命じる判決が下されています。
一方、患者が予測し得なかった行動を取って怪我をした場合など、予見不可能であった場合や、事故の原因と結果に施設側の行動との関係がないケースについては、責任は認められません。
3、介護事故で損害賠償を請求する場合の流れ
では、介護事故が発生し、損害賠償を請求する場合にはどのような流れになるのでしょうか? 大まかな流れとしては次のとおりです。
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(1)示談交渉
「当人同士の話し合いによって、解決を図ることです。多くの場合、利用者の家族、施設側との話し合いになります。
ただし、施設側は弁護士を立てるケースが多いため、請求する側が個人で対等な話し合いを進めることは非常に困難となるでしょう。 -
(2)調停
示談で折り合いがつかない場合、裁判所の調停という制度を利用して、裁判ではなく調停委員を間に挟んで話し合いを行います。あくまでも調停は話し合いの仲介を行う役割であるため、判決を下して損害賠償命令を行うわけではありません。調停を利用せず、そのまま訴訟を起こすケースもあります。
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(3)訴訟
調停でも問題が解決されなかった場合、裁判所に施設側を相手取り、損害賠償請求の訴訟を提起します。
しかし、介護事故で訴訟を起こすには費用も時間もかかります。地方裁判所で行われる一審判決が出るまででも数年かかることは珍しくありません。あなたか相手方が判決に納得ができないときは控訴できますが、そのときはさらに年月がかかることになります。
4、介護事故は弁護士へ相談を!
弁護士を代理人にした場合、以下のようなメリットが考えられます。
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(1)専門的な知識をもとに手続きが進められる
介護事故では施設側の過失責任が争点となりますが、過失の認定には介護の専門的な見地と法的な知識が必須となるため、個人での対応は困難です。施設側は弁護士を選任するケースが多いので、こちらも最初から弁護士を選任することが賢明でしょう。
弁護士を選任していれば、介護や医療の専門家の知見を借りた調査などを経て、施設側の責任を追及することが可能になります。 -
(2)代理人として交渉を任せられる
弁護士を選任すれば、示談交渉の段階から弁護士が代理人として交渉のテーブルにつくことになります。これにより、施設側との交渉という精神的肉体的負担を軽減させることができます。また、事実を証明する証拠を集める段階からアドバイスすることが可能です。証拠事実に基づいた交渉を行えることから、遠慮をすることなく問題の早期解決を目指せるでしょう。
5、まとめ
介護事故の多くは、利用者の生命にかかわる重大な事態を招くものです。たとえお世話になった施設が相手でも、その後の治療にかかる費用や精神的苦痛などから、損害賠償を求めることになる場合もあるでしょう。
しかし、施設側の過失を認めさせるには、法学だけでなく医療や介護の専門的な知見も必須となり、個人では対応が非常に困難です。そこで、介護事故トラブルで施設に損害賠償を求めたいとお考えのときは、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスまで、早急にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています