車の個人売買でトラブル! 名義変更をしてもらえないときの対処法
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高崎市を含む群馬県下では、令和元年度の1年間で78332台もの中古の常用車が登録されています(一般社団法人日本自動車販売協会連合会群馬県支部 群馬県自動車販売店協会「中古車登録台数 統計情報」より)。ご存じのとおり、車は生活に欠かせない足であるといっても過言ではないでしょう。
今使っている車を何らかの理由で売りたいと考えることはあるでしょう。そのとき、ディーラーや業者に依頼する方もいますが、個人売買するケースは少なくありません。特に最近ではネットオークションなどで簡単に取引できるので、車を個人売買する機会が増えているようです。
しかし、個人間で売買すると、買い主がきちんと「名義変更」してくれないケースがあるので注意が必要です。名義変更が行われていないと、自動車税の納付書も売り主のもとに届きますし、交通違反の責任が及んでしまうリスクも発生します。
今回は車の個人売買で名義変更をしてもらえない場合に想定されるリスクと対処方法について、高崎オフィスの弁護士が解説します。
1、車の名義とは?
車の個人売買では「名義変更」のトラブルが多数発生しがちです。そもそも「名義」とは何なのか、見ていきましょう。
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(1)そもそも車の名義とは
車の「名義」とは、その車の登録情報により表示されている「所有者名」です。日本では、車に「登録」制度が導入されており、公道を走る車はすべて陸運局に「登録」しなければなりません。具体的には「所有者名」や「車種」「年式」「ナンバー」などの情報が登録されています。
このように車についての詳細情報が「登録」されることにより、交通違反や盗難、交通事故などが起こった場合に「所有者は誰か」が明確になり、所有者に対して責任を追及することができます。また、自動車保険に入る際などにも「名義(所有者名)」を始めとした「登録情報」を保険会社に明らかにしなければなりませんし、自動車税も「名義(所有者名)」を基準として課税されます。
このように車の名義は、「その車の所有者です」という表示なので、非常に重要な登録情報です。車を売ったら所有者が変わるので、すぐに車の登録名義を変更しなければなりません。 -
(2)名義変更の方法
車を個人売買すると、通常は買い主側が名義変更を行います。売り主側は実印で押印した譲渡証明書や印鑑登録証明書、委任状等の必要書類を渡して買い主に名義変更を託します。
買い主がきちんと陸運局などの受付機関で名義変更の手続きを行えば車の名義は買い主に換わり、問題は起こりません。
しかし、ときにはきちんと名義変更をしない買い主がいます。売買契約をして車を売っても、買い主が手続きをしなければ名義はずっと売り主のままになってしまいます。車自体は買い主の手元にあるので、売り主は「車がどのような使われ方をされているかわからないのに、所有名義だけが自分になっている」という非常に不安な状態に陥ります。
2、車の名義変更をしないときに考えられるトラブル
個人売買であっても車を売ったら「すぐに」名義変更させなければなりません。もしも個人売買の買い主が車の名義変更をしなかったら、本項でご紹介するとおり、多大なリスクが発生します。
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(1)自動車税を請求される
車の名義人は「所有者」として扱われるので、自動車税は名義人にかかります。具体的には「毎年4月1日時点」における所有者に自動車税の納付義務が発生します。
買い主が名義変更をしないと、車は売り主の手元からなくなっているのに、いつまでも自動車税が請求され続ける可能性があります。支払いをしなかったら県税事務所などから滞納税の請求がきて、最終的には財産を差し押さえられるリスクも発生します。 -
(2)交通違反の責任をとらされる
買い主が駐車禁止をした場合にも注意が必要です。買い主がきちんと反則金を支払わなかった場合、「所有名義人」である売り主のもとに支払いの督促が届くからです。
自分が違反したわけでもないのに反則金を支払わねばならないのは大きな不利益です。かといって、買い主が反則金を納付しない状態で、反則金の未納付の状態が継続すると、滞納処分を受ける等の不利益を被ることがあります。
また、買い主である運転者が事故を起こした際には、所有者である売り主が民事上の責任(運行供用者責任。自賠法3条)を追及され、損害賠償請求をされるリスクがあります。 -
(3)交通事故の捜査対象になるおそれがある
買い主が交通事故を起こしたときのリスクも重大です。事故現場できちんと警察を呼んで対処すればよいのですが、たとえば買い主が「ひき逃げ」したらどうなるか考えてみてください。
車のナンバーや車種から特定されたら、ひき逃げ犯は、通常「登録名義人」を手掛かりとして捜査に着手することが多いことから、買い主が被疑者として捜査対象になる可能性があります。売り主が「売却済みで、自分が運転していたのではない」と主張しても、捜査機関が信用してくれない場合もあります。
3、相手が名義変更しないときにとるべき対応
個人売買で買い主が名義変更しない場合、以下のように対処してみてください。
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(1)連絡・督促する(内容証明郵便を送る)
まずは買い主に連絡を入れて、名義変更をするよう要求しましょう。相手が忘れていたり、面倒なので後回しにしていたりした場合には、督促されると名義変更に応じる可能性があります。
電話やメールなどの通常の連絡方法では買い主が対応しない場合「内容証明郵便」で名義変更の要求書を送るのもひとつです。内容証明郵便は相手に強いプレッシャーを与える効果を持つので、受け取ったら買い主が名義変更に応じる可能性があります。 -
(2)自分で手続きをする
買い主に任せておくといつ名義変更するかわからない場合、一緒に手続きするのもひとつです。必要書類の説明をして書類作成なども手伝い、一緒に陸運局などの受付機関に行って名義変更の申請をしましょう。買い主から委任状をもらえば、売り主が単独でも手続きできます。
なお車の名義変更の必要書類は以下のとおりです。- 譲渡証明書(売り主の実印による押印がある)
- 売り主の印鑑証明書(発行日から3か月以内)
- 買い主の印鑑証明書(発行日から3か月以内)
- 売り主の委任状(買い主が手続きする場合)
- 買い主の委任状(売り主が手続きする場合)
- 車検証
- 買い主の車庫証明書
- 手数料納付書
- 自動車税・自動車取得税申告書
- 申請書
名義変更は、普通車の場合には管轄の陸運支局、軽自動車の場合には軽自動車検査協会にて行います。
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(3)契約を解除して車を取り戻す
買い主が理由なく名義変更に応じない場合、売買契約を解除して車を取り戻せる可能性もあります。買い主に「名義変更をしないなら契約を解除する」と伝え、代金を返還して車を返還してもらう方法があります。
4、個人売買をするときの名義変更以外の注意点
中古車を個人売買するときには、名義変更以外にも以下のような点に注意が必要です。
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(1)車の欠陥や故障した場合についてのトラブル
個人売買では、買い主から「売却した車に欠陥があった」と疑われてトラブルになるケースがあります。たとえば「傷がついていた」「エンジントラブルが発生した」「エアコンが使えない」などのケースが多いでしょう。買い主が「こんな欠陥は聞いていない、お金を返してくれ」などと主張し、売り主との間でもトラブルになってしまう可能性があるのです。
さらには、個人売買で車を引き渡した後、故障が発生すると買い主が売り主へ金銭を要求するケースがあります。「パンクしたが、これは始めから車に問題があったのではないか?」「故障を隠していたのではないか?」などと言われてしまうケースです。 -
(2)代金が支払われないトラブル
一般的に、自動車の売買においては、大きな金額での取引が行われることが通常です。中古車を取り扱う企業に自動車を売却する場合と比較すると、個人間での売買においては、買い主から適切に代金の支払いがされないリスクが高くなります。個人買い主からの代金の回収が困難になることも珍しいことではありません。
5、個人売買のトラブル予防方法
個人売買で起こりやすい前述のようなトラブルを防ぐには、以下の2点を必ず対応してください。万が一の場合に備えることも可能です。
①契約書を必ず作成する
取引の際、契約書の作成は必須です。基本的に契約前には、名義変更の扱いや、引き渡し後の故障は買い主負担となることなどの事項、さらには金額、支払い方法や期日などを明記した契約書を作成してください。
個人売買だからといって契約書なしで済ませてはなりません。契約書を作成しなかったら代金不払いがあっても請求しにくくなってしまいます。
②事前に点検しておく
引き渡し後に「欠陥」「故障」などと疑われないよう、事前に点検を受けておきましょう。きちんと車の状態を確かめた上で、契約書を交わし、お互いが納得した上で売買を行えば、個人売買に伴うリスクを軽減できます。
契約書の作成に手落ちがないか不安があるときは、弁護士に相談することもひとつの案です。また、トラブルになったときは、個人で対応し続けているとできることがどんどん限られて行ってしまう可能性があります。速やかに弁護士に相談したほうがよいでしょう。
6、まとめ
車を個人売買するときには、名義変更を始めとした各種のトラブルが発生しがちです。きちんと点検や契約書作成をした上で取引を進めることをおすすめします。
適切な売買契約の結び方を知りたい、トラブルが現実化して困ったというときには弁護士に相談してください。ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスでは、法的判断を交えながら、あなたに適した対応方法のアドバイスを行います。
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