原野商法に遭ってしまった場合、できることはある?
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群馬県のウェブサイトでは、県民に向けて原野商法などの二次被害への注意を喚起する内容の記事が掲載されています。
原野とは、不動産登記における地目であり、人手が加わっておらず雑草などの生えている土地を指します。原野商法自体は、昭和45年頃から昭和64年頃にかけて多発したといわれていました。近年では、過去の原野商法の被害者やその相続人を標的として、「隣接する土地を買えば、原野商法で買わされた土地を高く売れる」などといってさらに原野を売りつける「原野商法二次被害」が増加傾向にあるのです。
そこで、本コラムでは、原野商法二次被害に遭ってしまったときにできることや被害の回復方法などを、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説します。
1、原野商法とは
「原野商法」とは、価値がまったくない、もしくはあっても非常に低い土地であるにもかかわらず、あたかも価値があるかのように見せかけて、真実を知らない消費者に高値で売りつける悪質商法をいいます。
典型的な手口は、「新幹線や高速道路が建設予定です」「リゾート開発が行われる予定です」「公共事業が計画されています」などと虚偽の情報を伝え、あたかも将来の値上がりが確実であるかのように勘違いさせて、二束三文の土地を売りつけるといったものでした。
このような原野商法は過去被害が多発しましたが、それ以降ゼロになったわけでありません。海外の高級リゾートホテルの会員権を売りつけるなど、類似の悪質商法が続いています。
当然のことながら、原野商法は犯罪行為であり、詐欺罪が適用されます。
2、原野商法二次被害
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(1)原野商法二次被害とは
原野商法二次被害とは、すでにお伝えしたとおり、過去の原野商法の被害者やその相続人を標的として、さらに原野を売りつけたり、金銭をだまし取ったりすることをいいます。
近年、過去の原野商法の被害者やその相続人を標的とする原野商法二次被害が増加し始めています。独立行政法人国民生活センターが平成30年1月に公表した資料によれば、原野商法二次被害に関する消費生活相談の件数は、平成22年度までは年間500件以下でしたが、平成25年度以降は一気に増加し、ほぼ毎年1000件を超えています。
また、原野商法二次被害1件あたりの平均被害額は484万円(平成30年度)と高額で、被害者の約90%を60歳代以上の高齢者が占めるという特徴があります。被害者の大半が高齢者であるということは、「残される人に相続の負担をかけたくない」「元気なうちに負の遺産を清算したい」という気持ちにつけこむものであるといえます。 -
(2)原野商法二次被害の典型的な手口
全国の消費生活センターに寄せられた相談事例などによれば、原野商法二次被害の典型的な手口は、以下のようなものであるとされています。
① 管理費請求型
突然、心当たりのない管理業者から、「管理費を滞納しているので支払え」「あなたの土地をずっと管理してきたので、その費用を支払え」などといった通知が届くようなケースです。
具体的には、次のような事例が考えられます。- 管理を頼んだりしていないにもかかわらず、一方的に管理費を請求されている
- 過去の原野商法の契約に「管理契約を更新しなければならず、解約が認められない」という条項があるが、どのように対応すればわからず言われるがままになっている
② 売却勧誘/サービス提供型
「土地を売るために測量が必要」などと言って、高額の広告費や測量費を請求するようなケースです。売却の準備をするために、整地や測量、登記などの費用が必要になるといってお金をだまし取るという手口です。
原野商法では、土地に価値がないだけでなく、土地を所有していること自体がマイナスとなってしまいます。そのため、被害者は、常に「早く土地を処分したい」という気持ちを抱えていて、実際に相続が現実味を帯びてくると、「次世代に負の遺産を残したくない」というように、その気持ちはさらに大きくなります。この手口は、被害者の気持ちを悪用するものであるといえます。
③ 売却勧誘/下取り型
「より高い価値がある土地と交換」「下取るので、差額で代わりにうちの会員権を買ってください」「節税対策をしましょう」などといって、差額を請求するようなケースです。加害者も、被害者が持っている不動産に価値がないことはわかっていますので、別の土地との交換や、別の商品との抱き合わせ交換を提案して、お金をだまし取るという手口です。
以上、原野商法二次被害の典型的な手口を紹介しました。
典型的な手口を知っておくことは、自分が被害に遭うことを回避することにつながります。万が一、似たような場面に遭遇した場合には、原野商法二次被害を疑ってかかってもよいかもしれません。 -
(3)原野商法二次被害に遭わないために注意すること
原野商法二次被害のような詐欺の加害者は、被害者に詐欺であると気付かれないように、巧妙に近づいてきます。そして、契約後は加害者と連絡がつかなくなることがほとんどで、一度お金を支払ってしまうと、お金を取り戻すことが非常に困難になりがちです。
不用意に加害者の話を聞いてしまうと、さらなるトラブルに遭ってしまうおそれがありますので、「土地を買い取る」などといった勧誘には、耳を貸さずきっぱりと断るという姿勢が重要です。
ここでは、原野商法二次被害に遭わないために注意すべき点を整理しましたので、ご自身のみならず、身近な高齢者を見守るためにも参考になさってください。- 「土地を買い取る」「お金は後で返す」などと言われても、きっぱりと断る(即決しない)
- 相手が宅地建物取引業の免許を見せてもすぐには信用しない
- 根拠が不明な請求をされたら、絶対にお金を支払わない
- おかしいと気付いたときやトラブルに遭ったら、消費生活センター等に相談する
- 身近な高齢者がトラブルに遭っていないか気を配る
3、原野商法・原野商法二次被害に遭ってしまったときにできること
いくら注意していたとしても、悪意ある加害者からの被害を100%防ぐことは困難です。
すでにお伝えしたとおり、原野商法二次被害では、契約後は加害者と連絡がつかなくなることがほとんどですので、時間がたてばたつほど、お金を取り戻すことが困難になります。そのため、万が一自分が原野商法二次被害に遭ってしまったときには、なるべく早く対応することが重要となるでしょう。
万が一原野商法二次被害に遭ってしまったときには、次のような対応をとることができます。
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(1)損害賠償請求
不動産の売買などの宅地建物取引業を行うには、宅地建物取引士の関与が必要です。加害者との連絡がつかなくなったとしても、詐欺に関与した(名義を貸した)宅地建物取引士の責任を追及することが考えられます。
この場合、宅地建物取引士からは、「自分の名義を勝手に使われただけだ」とか「(名義は貸したけれども)詐欺を行っているなんて知らなかった」などといった反論があるケースは少なくありません。
そのため、関与の程度や態様などを緻密に検討したうえで、被害者側の主張を組み立てる必要があります。 -
(2)登記の抹消手続請求
現実問題として、原野商法二次被害に遭った場合に被害額の全額を回復することには困難が伴うでしょう。しかし、そのような場合であっても、さらなる被害の拡大を防ぐため、原野商法によって押し付けられた土地を処分しなければなりません。
すでにお伝えしたとおり、原野商法では、土地を所有していること自体がマイナスであり、固定資産税や相続税のほか、所得税や不動産取得税などがかかります。これらの負担を免れるためには、土地の登記を抹消する必要があるのです。
具体的には、勝訴判決を得て、所有権移転登記の抹消登記手続を行うことが必要です。この手続きであれば、たとえ加害者と連絡がつかなくなって訴訟に参加しなくても、判決を得ることができます。 -
(3)クーリングオフ
宅地建物取引業者による宅地の販売であれば宅地建物取引業法(宅建業法)に基づく請求が可能で、そうでないとしても、特定商取引法に基づくクーリングオフが可能です。
ただ、それぞれ以下の制限があります。- 宅建業法に基づく請求について
宅地の引き渡しを受け、かつ代金の全額を支払ったときは適用除外となるなどの制限 - 特定商取引法に基づくクーリングオフ
契約書面を受け取った日を起算日とした制度の適用が可能な期間や方法の制限
原野商法の二次被害に遭ったと気づいたタイミングで、消費生活センターへすぐに相談することをおすすめします。
- 宅建業法に基づく請求について
4、消費者被害の相談窓口
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(1)全国各地の消費生活センター等
消費生活センター等に相談すれば、消費生活相談員から、加害者との自主交渉の方法や具体的な解決策などについて助言を受けることができます。ケースによっては、交渉の手伝い(あっせん)を受けることも可能です。
相談の電話番号は全国共通の「消費者ホットライン」が用意されていて、「188」とダイヤルすれば、あなたの身近な消費生活センターや消費生活相談窓口を案内してくれます。高崎にお住まいであれば、高崎市消費生活センターへ直接問い合わせてみてください。群馬県消費生活センターのサイトには、お近くの消費生活センターの連絡先や営業時間などが記載されています。 -
(2)弁護士への相談を
消費生活センター等への相談でも一定の解決を期待することができますが、損害賠償請求・登記の抹消手続請求・クーリングオフなどによって問題を一挙に解決するためには、これらをすべて代理して行うことのできる弁護士への相談が効果的であるといえます。
原野商法二次被害に関する訴訟等の実例は数多くなく、事案の内容に応じた的確な対応が求められることとなります。原野商法二次被害に実績のある弁護士への相談をおすすめします。
5、まとめ
原野商法二次被害には典型的な手口があり、被害を避けるためには、なによりも加害者からの誘い話をきっぱりと断る(即決しない)ことなどが必要です。怪しい、うまい話すぎると感じたら、すぐに契約などは行わず、消費生活センターなどへ問い合わせてみることをおすすめします。
万が一、被害に遭ってしまった場合には、損害賠償請求や登記の抹消手続請求などが考えられます。その場合も、消費生活センターへ問い合わせ、どのように進めるべきかアドバイスを受けましょう。そのうえで弁護士への相談・依頼をすることで、必要な部分のみ依頼することが可能となります。原野商法の被害に遭い、登記の抹消手続請求などの対応をご検討されるときは、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスへお問い合わせください。親身になって対応します。
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