共有名義の不動産、片方が死亡した場合の相続人とは?

2022年02月08日
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共有名義の不動産、片方が死亡した場合の相続人とは?

高崎市を管轄している関東信越国税局が公表している「令和元年分相続税の申告事績の概要」によると、令和元年の相続税が課税された相続事案のうち、土地や家屋など不動産が相続財産全体に占める割合は43.2%でした。統計資料では明らかにされていませんが、不動産のうち一定数は共有名義の不動産が存在するものと予想されます。

自宅を建てる際に、両親との同居を前提として自宅を共有名義としている方も多いと考えられます。このように不動産が共有名義であった場合には、共有者の片方が死亡した場合には、それまで共有していた不動産はどうなってしまうのでしょうか。

今回は、共有名義の不動産を所有している方に向けて、共有者の片方が死亡した場合の手続きについて、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説します。

1、共有名義とは

共有名義とは、ひとつの不動産を複数人が所有して、各共有者の持ち分に応じて登記がなされている状態をいいます。

たとえば、5000万円の不動産を購入する際に、Aが3000万円、Bが2000万円を出して購入した場合には、AとBが当該不動産の共有者となり、Aが5分の3の持ち分を有し、Bが5分の2の持ち分を有し、共有名義の登記を行うことになります。

不動産を共有する場合には、民法の規定では各共有者は持ち分に応じた部分だけを使用できるというわけではなく、当該不動産の全部を使用することができます。ただし、共有名義の不動産の場合には、単独所有の不動産と異なり共有という性質から生じる、さまざまな制約を受けることになります。

2、死亡した人の共有持分は誰が相続するのか

共有者の片方が死亡した場合には、当該共有者の共有持分は誰が相続することになるのでしょうか。

  1. (1)遺言がある場合

    死亡した共有者が遺言書を残していた場合には、遺言書の内容に従って遺産を分割することになります。そのため、遺言者が他方の共有者に共有持分を相続させる内容の遺言書を残していれば、他方の共有者が共有持分を取得することになります。

    他方、遺言によって他方の共有者以外の人に対して共有持分が遺贈された場合には、当該受贈者が共有持分を取得し、被相続人に代わって他方の共有者と当該不動産を共有することになります

  2. (2)遺言がない場合

    遺言がない場合には、死亡した共有者に相続人がいるかどうかによって結論が変わってきます。

    ① 法定相続人がいる場合
    死亡した共有者に法定相続人がいる場合には、当該法定相続人が共有持分を含めた遺産を相続することになります。共有持分を相続人の誰が相続するかについては、相続人全員による話し合いである遺産分割協議によって決めます。法定相続人に他方の共有者が含まれる場合には、被相続人の共有持分を取得することができるように話し合いを進めるのが一般的です。

    ② 法定相続人がいない場合
    死亡した共有者に法定相続人がいない場合やすべての相続人が相続放棄をしたような場合には、被相続人の遺産を相続する人が誰もいなくなります。

    この場合には、他方の共有者は、死亡した共有者が所有する共有持分の分配を求めて、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申立を行うことになります。この手続きでは、被相続人に債権者などがいれば相続財産から弁済を行いますし、特別縁故者から財産分与の申し立てがあれば、特別縁故者に相続財産が分与されることになります。

    なお、特別縁故者とは被相続人と特別の縁故にあった方をいい、民法の規定では、以下の者を指します。

    • 被相続人と生計を同じくしていた者
    • 被相続人の療養看護に努めた者
    • その他被相続人と特別の縁故にあった者


    他方、民法255条では、共有者の1人が死亡して相続人がいない場合には、その持ち分は他方の共有者に帰属すると規定されています。そのため、特別縁故者と共有者のどちらが優先するのかという問題が生じます。

    この点に関して最高裁判所は、特別縁故者への財産分与の制度が設けられている趣旨を尊重し、共有者の片方が死亡した場合の共有持分については、特別縁故者に対する財産分与が優先し、特別縁故者がいない場合や特別縁故者への財産分与をしても共有持分が残っている場合に他の共有者に帰属すると判断しています(最高裁平成元年11月24日判決、昭和62(行コ)36)。

3、相続手続きの流れ

不動産の共有者の片方が死亡した場合の相続手続きは、以下のような流れで進めます。

  1. (1)法定相続人がいる場合

    死亡した共有者に法定相続人がいる場合には、以下のような手続きを行います。

    ① 遺言書の有無を確認
    被相続人が死亡した場合には、まずは、遺言書の有無を確認します。遺言書がある場合には、相続人による遺産分割協議よりも遺言書の内容が優先されるからです。

    自筆証書遺言であれば自宅の金庫を探すか法務局で検索をし、公正証書遺言であれば公証役場で遺言書の有無を検索します。遺言書が見つかった場合には、遺言書の内容に従って遺産の分割を行います。なお、自筆遺言証書があった場合には家庭裁判所の検認手続が必要となります。

    ② 遺産分割協議
    遺言書が存在しない場合には、相続人全員で話し合って遺産の分割方法を決めます。基本的には法定相続分に従って遺産を分けることになりますが、相続人全員の合意があれば法定相続分とは異なる遺産の分割も可能です。一部の相続人に遺産の現物を取得させ、それ以外の相続人が遺産現物を取得した相続人から代償金を受け取るという遺産分割の方法も可能です。これを代償分割といいます。

    遺産分割協議がまとまった場合には、遺産分割協議書を作成して、その内容を残しておくようにしましょう。遺産分割協議書は、将来のトラブルを防止するために有効な書面ですし、後述する相続登記の必要書類となります。遺産分割協議書の作成についても法律的な知識が必要ですので弁護士に相談することをおすすめします。

    相続人が共有持分を相続したくないという場合には、遺産分割協議のなかでその旨の希望を出せば足りますが、そもそも、相続自体をしたくないという場合には、相続放棄の手続きを行います。相続放棄は、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所に対して申し出なければなりません。

    相続放棄手続は期間制限もあり、戸籍等のそろえなければならない書類もあるので早めに弁護士に相談することをおすすめします。

    ③ 相続登記
    被相続人の遺産に不動産が含まれていた場合には、遺産分割協議の結果に従って、不動産の名義を被相続人から相続人に変更します。これを「相続登記」といいます。

    ④ 相続税の申告と納税
    相続財産の総額が相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、相続税の申告が必要になります。相続税の申告と納税の期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月ですので、忘れずに行うようにしましょう。

  2. (2)法定相続人がいない場合

    死亡した共有者に法定相続人がいない場合には、他方の共有者は、以下のような手続きを行います。

    ① 相続財産管理人の選任申立
    死亡した共有者に法定相続人がいない場合には、そのままでは他方の共有者は、死亡した共有者の共有持分を取得することができません。共有持分を取得するためには、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申立をする必要があります。

    ② 相続財産管理人による債権者などへの支払い
    相続財産管理人の選任申立を行うと、裁判所が相続財産管理人の選任を行います。裁判所によって選任された相続財産管理人は、相続財産の管理・処分を行い、被相続人の債権者などに相続債務の弁済を行います。

    ③ 特別縁故者または共有者への共有持分の引き継ぎ
    被相続人の特別縁故者による財産分与の申し立てがあった場合は、特別縁故者に該当するかどうかおよび特別縁故者に該当するとしてどの程度の相続財産を分与するかの審査が行われます。すでに説明したとおり、特別縁故者は、他の共有者に優先しますので、特別縁故者に対して共有持分の分与がされた場合には、他の共有者は、共有持分を取得することができません

    特別縁故者がいないか、特別縁故者への財産分与をしてもなお共有持分が残っている場合には、他の共有者に共有持分が帰属することになります。

4、共有名義をめぐる相続トラブル

不動産を共有名義にしておくと、相続時に以下のようなトラブルが生じる可能性がありますので注意が必要です。

  1. (1)起こりうるトラブル

    共有名義をめぐって生じる可能性のあるトラブルとしては、以下のものが挙げられます。

    ① 利用処分の方法をめぐるトラブル
    共有名義の不動産は、単独所有の不動産と異なり、不動産の利用処分にあたってさまざまな制約がありますので、共有不動産の利用処分の方法をめぐって共有者同士でトラブルになることがあります。

    たとえば、不動産を売却したり不動産を担保にお金を借りようとしたりする場合には、共有者全員の同意が必要になります。共有者間で意見の食い違いがあれば、共有不動産を活用することが難しくなってしまいます

    ② 費用負担をめぐるトラブル
    不動産を所有していると固定資産税という税金が生じます。これは共有不動産であっても同様です。しかし、共有不動産の場合には、共有持分に応じて分割された固定資産税が請求されるというわけではなく、市区町村役場から共有者の代表者に全額の固定資産税の請求がなされます。

    代表者が固定資産税を支払った後、共有者同士で話し合いをして、持ち分に応じた費用負担をすることができればよいですが、話し合いに応じてくれないなどの理由で費用負担に応じない共有者がいると、費用負担をめぐるトラブルが生じることになります

    ③ 権利関係が複雑になるトラブル
    共有者の片方が死亡した場合には、相続によって共有者の相続人が共有持分を取得することになります。他方の共有者が相続人であれば、遺産である共有持分を取得することによって単独所有にすることもできますが、他方の共有者が相続人でない場合には、共有持分を複数の相続人が共有することによって権利関係が複雑になるというトラブルが生じます。

  2. (2)トラブルを回避する方法

    不動産の共有名義をめぐるトラブルを回避する方法としては、共有関係を解消することが一番の方法です。そのための方法としては、以下の方法が挙げられます。

    ① 相続開始前に共有関係を解消
    共有者同士が生きている間に共有関係を解消する方法としては、共有者の一方の共有持分を他方の共有者が買い取るという方法があります。

    また、共有者のどちらも当該不動産を利用しないという場合には、不動産を処分して、売却代金を共有持ち分に応じて分けるという方法もあります。

    ② 遺言書の作成
    共有者の片方が死亡して、他方の共有者が相続人にならない場合には、遺産分割において共有持分を取得することができません。また、他方の共有者が相続人になる場合であっても、遺産分割協議において他方の共有者が共有持分を取得することができるとは限りません。

    そのため、共有者の死亡後に、共有持分をめぐって相続人や共有者で争いが生じることを防ぐためには、遺言者が所有する共有持分を他方の共有者に対して相続(遺贈)する旨の遺言書を作成しておく必要があります

5、まとめ

共有名義の不動産があり、共有名義を持つ者の片方が亡くなった場合、通常の相続手続きに比べて手続きが複雑で、トラブルも生じやすくなります。大きな金額負担が発生してしまう事態が起こりやすく、また、現状問題はなくとも、将来的に名義人関係が複雑になってしまう可能性が出てきます。

共有名義の不動産の相続に不安がある場合は、早い段階でベリーベスト法律事務所高崎オフィスまでご相談ください。起こりうるトラブルを想定し、適切な対応方法についてアドバイスを行います。また、すでに争いになりかけているのであれば、解決に向けたサポートが可能です。

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