遺産相続で成年後見人を付けるときの注意点は? 弁護士が解説します
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親族が亡くなられて遺産相続の話し合いが必要になったとき、相続人のなかに、認知症や知的障害で判断力が低下された方がおられることもあるでしょう。遺産相続協議では、判断力の失われた方に代わってその方の利益を図る、成年後見人を付けることが必要とされる場合があります。
成年後見人制度は、高崎オフィスの近隣でも利用されています。司法統計によると、平成30年度中に前橋地方裁判所で取り扱われた家事審判や調停のうち、「後見人等の選任」は160件、そのなかでも「成年後見人の選任」は88件となっているのです。
本コラムでは、成年後見人制度の利用方法や注意点について、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説します。遺産相続の場面で親族に成年後見人を付ける必要があるかどうかお悩みの方は、ぜひご一読ください。
1、成年後見人制度とは?
成年後見人とは、判断能力が著しく低下した状態にある成人のために、財産の保護や法律行為を代理で行う人のことです。
具体的には、高齢による認知症や精神障害・知的障害によって判断能力が低下した方に、成年後見人が付けられます。自分の行為がどんな意味を持つのか、その行為によってどのような結果が発生するのかを理解できない状態にある本人(被後見人)に代わって、成年後見人がその方の利益を図って行動することが、制度の趣旨とされているのです。
また、判断能力がある程度は残っているもののひとりで法律行為をするには不十分な状態である方には、判断能力の低下の段階に応じて「保佐人」または「補助人」が選任されることがあります。
2、成年後見人を付けずに相続をすすめることは可能か
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(1)判断能力が低下した本人にとって不利益になる
ある方が亡くなられたとき、遺産を相続する権利を持つ人(相続人)が複数人いる場合には、相続人同士で「遺産分割協議」が行われることになります。
相続人のなかには、判断能力の低下された方がいる可能性もあります。しかし、その本人が遺産分割協議に参加しても自らの利益を適切に主張することは難しく、本来の取り分をほかの相続人に取られてしまうおそれがあるでしょう。
そのような事態を防ぐため、成年後見人が遺産分割協議に参加することが求められるのです。
また、亡くなられた方(被相続人)が負債を残していた場合には、相続人は相続を放棄することができます。
しかし、相続人が判断能力の低下された方であると、3か月の熟慮期間内に相続放棄の選択ができず、よくわからないまま借金を背負ってしまうおそれがあります。
成年後見人が相続人を代理することで、このような事態を防ぐことができるのです。 -
(2)成年後見人なしで遺産分割協議を行っても無効になる可能性がある
相続人のなかに判断能力の低下された方がいるにもかかわらず、成年後見人を付けずに遺産分割協議をすすめてしまうことは、ほかの相続人にとっても不利益を及ぼすおそれがあります。
遺産分割協議が行われた後には、その結果を「遺産分割協議書」という書面を作成することになるのが通常です。
遺産分割協議書は、被相続人の預貯金の解約・払い戻しや相続登記、相続税申告などの際に提出を求められる重要書類です。しかし、「判断能力のない人が内容を理解しないまま署名捺印をした」と判断されると、遺産分割協議書は無効となってしまうことがあります。
また、遺産分割協議には相続人全員が参加しなければなりません。
そのため、判断能力の低下した相続人を話し合いの場に呼ばずに協議を行った場合にも、その結果は無効となります。
したがって、相続人のなかに判断能力の低下された方がいる場合に遺産相続協議を行うためには、成年後見人を付けることが必要とされるのです。 -
(3)どうしても成年後見人なしで相続手続きしたい場合
成年後見人制度にはデメリットもあります。
ひとたび成年後見人が付いたら、原則として被後見人が亡くなるまで後見人は付き続きます。その間は、被後見人の財産や法律行為に関する煩雑な手続きや対応も継続します。親族が後見人となった場合でも弁護士や司法書士などの第三者が後見人となった場合でも、親族にとっては負担がずっと続くことになるのです。
そのため、成年後見人を付けずに相続手続きをすすめたいと思われる方もいるでしょう。
その場合、「適切に書かれた遺言書を被後見人が生前に作成する」「法定相続分通りに相続する」などの方法を検討することができます。
被相続人が生前に全財産の分配方法を遺言書に定めていれば、相続人が遺産分割協議をする必要はなくなります。遺言書の指示の通りに遺産を分割すればよいからです。
しかし、遺言書は正しい手続きで作成されていなければその法的効力が無効となります。
3、誰が成年後見人になるのか?
基本的に、成年後見人は被後見人の親族がなるか、司法書士や弁護士などの士業がなります。
後述するように、遺産相続がかかわる場面では利益相反を避けるために士業が後見人となる場合が多いでしょう。
4、成年後見人選任の手続きについて
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(1)家庭裁判所に後見開始の申し立て
成年後見人を選任するためには、まず、家庭裁判所に後見開始の申し立てをしなければなりません。被後見人の住所地にある家庭裁判所が管轄となります。高崎オフィス近辺にお住まいの方であれば、前橋家庭裁判所が管轄となるでしょう。
申し立ての権限がある方は、本人(判断能力を取り戻しているときのみ)、配偶者、4親等以内の親族などになります。また、すでに未成年後見人や保佐人が付いている被後見人が認知症などの進行や加齢により成年後見人への移行を必要とする場合には、未成年後見人や保佐人が申し立てをすることもできます。
申し立てに必要な書類の概要は、以下の通りです。- 後見開始申立書(家庭裁判所のホームページで入手可能)
- 申立事情説明書
- 本人の戸籍謄本、住民票または戸籍附票、医師の診断書、財産目録、収支状況報告書、財産・収入状況を示す資料、後見開始していない旨の登記事項証明書
- 成年後見人候補者の住民票または戸籍附票
- 後見人等候補者事情説明書
(その他収入印紙代、連絡用郵便切手代、鑑定料など)
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(2)本人・申立人・成年後見人候補者との面接
後見開始を申し立てると、後日に家庭裁判所から申立人に面接の連絡が届きます。連絡が届いた後には申立人と成年後見人候補者が家庭裁判所に出向して、裁判官との面接が行われます。面接では、申し立ての理由や被後見人と後見人候補者との関係性など、様々な確認事項が質問されることになります。
会話が可能な状態であれば、意思確認のために被後見人が面接を受ける場合もあります。 -
(3)親族照会
申立人や後見人候補者との面接の後には、成年後見を開始することについて、被後見人の親族に対して家庭裁判所が意見照会を行います。
このとき、親族の間で利害関係の絡むもめ事などが起こっていると、特定の親族を成年後見人に選任することはできなくなる場合があります。後見人による被後見人の財産の使いこみなど、さらなるトラブルに発展するおそれがあるからです。
遺産相続はもめ事になりやすいので、親族が成年後見人になれない場合は多いといえます。 -
(4)本人に対する鑑定
最初に提出された医師の診断書や面接によっても判断能力を見極めるのが難しい場合には、裁判所による鑑定が行われることもあります。鑑定が必要になった場合、かかる費用の目安は10万円程度です。なお、医師による診断書の作成費用は病院ごとに異なります。
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(5)後見開始の審判
後見開始が決定すると、成年後見人が選任されます。結果は本人と成年後見人に通知され、その2週間後に確定します。
そして法務局の登記ファイルに「後見開始・後見人選任の登記」が行われた時点で、一連の手続きが終了となるのです。
この登記には、本人と成年後見人の氏名住所などが記載されます。後見登記の証明書の閲覧は、本人および配偶者、4親等内の親族、そして成年後見人などに限定されています。
家庭裁判所の申し立てから後見開始の審判までには、通常、1か月から2か月かかります。相続手続きを速やかに済ませたいと考えていられるなら、後見開始の手続きも迅速に開始したほうがよいでしょう。
5、弁護士を成年後見人に選任するメリットとは?
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(1)成年後見監督人を選任する必要がなくなる
親族が成年後見人になると、後見人と被後見人が利益相反の関係になってしまうおそれがあります。
後見人は被後見人の利益を図って行動する義務がありますが、同時に、ひとりの人間として自分自身の利益を図って行動する権利もあります。親族が後見人になると、遺産相続の場面などでは、「被後見人の利益を図ると後見人自身の利益が損なわれる」という事態が生じかねないのです。
そのため、遺産相続などにおいては、成年後見人とは別に「成年後見監督人」を選任する、または特別代理人を選任する手続きを行う必要が生じます。
そして、後見人は自分自身の利益を図り、成年後見監督人、あるいは特別代理人が被後見人の利益を図る、というかたちで遺産分割協議を行うことになるのです。
しかし、成年後見監督人や特別代理人を選任してもらうためには、家庭裁判所において申し立て手続きを行う必要があり、その手続きは、煩雑であることが多々あります。
弁護士を成年後見人に選任しておけば、利益相反がそもそも発生せず、成年後見監督人や特別代理人選出する必要もなくなります。 -
(2)相続に関する面倒な手続きをワンストップで完結
遺産相続の場面では、後見人に関することを除いてもさまざまな手続きが必要となりえます。相続財産や相続人の調査、遺言書の検認申し立て、相続放棄や限定承認の申述などです。
これらの手続きは法律になじみのない一般の方にとっては難しいものが多いうえに、それぞれの手続きに厳格な期限が定められており、迅速で正確な処理が必要とされます。
しかし、弁護士に依頼すれば、手続きの大半を代行させることができるのです。
また、相続協議では相続人同士の利害が衝突してしまい、協議では解決できずに家庭裁判所での遺産分割調停や審判が必要となる場合もあります。
このときにも、申し立ての手続きを弁護士に代理してもらうことができるのです。 -
(3)被後見人の財産を弁護士が適切に管理
成年後見人には、被後見人の財産目録や年間収支目録を裁判所に提出するなどの義務があります。
弁護士が後見人になると、親族の方がこれらの書類を作成する手間もなくなる点も、弁護士に依頼するメリットといえるでしょう。
また、弁護士は、弁護士法に定められた専門職としての職業倫理を遵守して、誠実に任務を遂行します。気になることがあれば、財産目録や年間収入目録を閲覧することで、後見人に選任した弁護士が適正に業務を行っているかを親族が監督することも可能です。
そのため、弁護士であれば、被後見人の財産が不適切に利用されることを心配せずに、安心して後見人を任せることができるのです。
6、まとめ
相続人のなかに判断能力の低下された方がいる場合、正しい手続きで作成された詳細な遺言を前もって定めていなければ、成年後見人を付けることは避けられないでしょう。
特に遺産相続がかかわる場面では、親族が後見人になるよりも弁護士が後見人になった方が、煩雑な手続きを回避して遺産相続協議を適切に進めやすくなります。後見人のほかにも、相続をめぐるさまざまな場面で弁護士は相続人の助けとなるでしょう。
成年後見人制度の利用を検討されている方、遺産相続協議について不安のある方は、ぜひベリーベスト法律事務所 高崎オフィスへお気軽にご連絡ください。
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