前科があると就職は難しい? 前科歴がおよぼす私生活や就職の影響

2020年12月21日
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前科があると就職は難しい? 前科歴がおよぼす私生活や就職の影響

平成29年版犯罪白書によると、平成28年に再び罪を犯し刑務所へ入所した方のうち72.9%が無職だったことが明らかになっています。就労していないケースにおける再犯率の高さから、高崎地区更生保護サポートセンターをはじめ各種施設では、矯正就労支援が盛んに行われています。

しかし、前科があるからといって就職できないわけでは当然ありません。また、インターネットのサイトに載っている逮捕歴などについては削除することも可能です。本コラムでは、すでに前科がある人、あるいはこれから前科が付きそうという方のために、前科の基本的なあらましから前科が消える事由、さらにはインターネットのサイトに載ってしまった逮捕歴などを消す方法について、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説します。

1、前科とは?

前科とは、過去に有罪判決を受けた事実があることを意味するものです。

前科は実刑だけではなく、執行猶予や禁錮刑、あるいは罰金や科料 (1000円以上1万円未満)の判決となった場合でも付くものです。また、一度前科が付くと、原則 検察庁のデータベースおよび市町村役場の犯罪人名簿に登録されます。

前科と似たような言葉として前歴がありますが、前歴は過去に被疑者として警察など捜査機関の捜査の対象となった事実を示すものです。たとえ逮捕されたとしても、不起訴処分などで有罪にならなった場合、前科ではなく前歴が付くことになります。また、検察に送致されず、警察だけで捜査・処分が終わる「微罪処分」になった場合も、前科ではなく前歴が付きます。

なお、交通違反における反則金の納付や免許停止・取り消しは刑事処分ではなく行政処分です。したがって、罰金刑以上にならないかぎり前科も前歴も付きません。

2、前科がバレると就職できない?

  1. (1)前科はバレる?

    前科があると、就職や転職に大きなハンデになると考える方は多いようです。たしかに、採用する会社の立場からしても、同じ能力で前科がある人・ない人のどちらかひとりを選ばなければならないような場合は、前科がない人を選ぶ企業のほうが多いでしょう。

    しかし、自分は前科があるから就職・転職は永久にできないのではないか、などと過度に心配する必要はありません。なぜなら、前科がある事実は意外と知られにくいからです。前科は重要な個人情報です。このため、前科の事実は公開されませんし、応募した会社が警察や裁判所、検察や市町村役場に前科の有無を問い合わせたとしても、それに回答することはまずあり得ません。

    ただし、 かつて事件について実名報道されたりした場合などは、前科がある事実が露呈する可能性が高いでしょう。また、懲役の実刑を受けた場合は履歴書上に空欄が生じるため、そこから何らかの詮索が入る可能性があります。

  2. (2)前科は履歴書には書くべき?

    履歴書の経歴欄に、前科がある事実および前科が付いた事件を記載する必要はありません。

    ただし、履歴書のフォーマットによっては「賞罰の有無」というような記載欄があります。ここでいう「罰」とは、まさに「前科はありますか?」ということを問うているものです。前科があるのにもかかわらず、この記載欄に「無」と記載すると、履歴書の虚偽記載となってしまいます。そのまま入社できたとしても、あとで前科がある事実が露呈した場合、会社の就業規則次第では経歴詐称として解雇されてしまう可能性は否定できません。

    なお、前歴や行政処分に関しては、賞罰欄の罰には該当しないため、記載の必要はありません。また、少年事件における処分は前科ではなく前歴になるため、こちらも記載しなくてもよい情報となります。

  3. (3)前科が欠格事由になる職業も

    求人広告に、「前科者はお断り」と明記している会社はほとんどないでしょう。しかし、法律上、前科が「欠格事由」となる職業は一部存在します。

    公務員 禁錮以上の刑に処せられた場合、その執行が終わらないかぎり採用に応募することは不可(国家公務員法第38条第1項および地方公務員法第16条第1項)
    宅地建物取引業者 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、または執行を受けることがなくなつた日から5年を経過するまで(宅地建物取引業法第5条第1項第5号)
    医師 罰金以上の刑に処せられた場合、医師免許交付不可の場合あり(医師法第4条第3号、第7条)
    公認会計士、税理士、司法書士、行政書士 禁錮以上の刑に処せられた場合、その執行を終了または執行を受けることがなくなってから3年を経過するまではなれない(公認会計士法第4条第3号、税理士法第4条第5号、司法書士法第5条第1号、行政書士法第2条の2第3号)
    弁護士、裁判官、検察官などの法律家 禁錮以上の刑に処せられた場合(弁護士法第7条第1号、裁判所法第46条第1号、検察庁法第20条第1号)

3、パスポートの取得は?

就職・転職先によっては海外勤務もあり得ます。では、パスポートを取得する必要がある場合、前科はどのような影響をおよぼすのでしょうか。

旅券法第13条によりますと、以下の事由に該当する場合はパスポートの発給がなされない場合があると規定しています。

  • 死刑、無期もしくは長期2年以上の刑が科される罪で訴追されている場合、あるいはこれらの罪を犯した容疑で逮捕状、勾引状、勾留上もしくは鑑定留置状が出ていることが、関係機関から外務大臣に通報されていること。
  • 禁錮以上の刑に処せられており、その執行を終わるまで、または執行を受けることがなくなるまで。
  • 自己名義のパスポートを他人に使用させたり、他人名義のパスポートを使用、あるいはパスポートの返納命令に従わず処罰された場合。

4、前科情報や逮捕歴はいつまで残る?

  1. (1)法的にはいつまで残る?

    法律では、刑の消滅の規定、すなわち前科が消滅する年数として以下を規定しています(刑法第34条の2)。

    • 禁錮刑以上の刑……10年
    • 罰金以下の刑……5年


    また、同条第2項では、前歴が消滅する期間として2年を規定しています。

    上記の年数を経過すると、市区町村の犯罪者名簿から削除されます。また、警察から無犯罪である旨の犯罪経歴証明書の発行を受けることができます。

    ただし、犯歴事務規程第18条の規定により、警察や検察のデータベースには依然として犯歴管理の記録、すなわち逮捕歴の情報が本人の死亡まで残ります。したがって、新たな罪を犯した場合、前科があったことが考慮され量刑の決定において不利になるでしょう。

  2. (2)インターネットの逮捕歴はどうなる?

    前科・前歴が法的には消滅したとしても、インターネットのニュースサイトやブログ、掲示板はそうはいきません。管理人がサイトを削除しないかぎり、延々と検索エンジンに個人名や逮捕された事実がヒットすることになります。逮捕歴がある人にとって、就職はもちろん、これからの人生のために、自身の逮捕歴は何としてもインターネットから消したいとお考えになるのは当然のことです。

    実際に、児童買春の前科がある男性が検索エンジンに自身の逮捕歴がヒットすることはプライバシー権の侵害であるとして、Googleに対して削除を求める訴えを提起しました。一審のさいたま地裁は男性の訴えを認めたもののGoogleが控訴し、東京高裁は一審の判決を破棄しました。注目が集まった平成29年1月1日最高裁判決 では、「検索結果の表示の社会的意義よりも明らかに個人のプライバシー保護が優越する場合は、削除が認められる」としつつも、「本件男性の場合に関してはプライバシー権の優越は認められない」として、男性側の敗訴となっています。

    この判例からもわかるように、検索エンジンの社会的意義は、前科という個人のプライバシー権よりも優越するものとされているのです。

    したがって、インターネットから自身の逮捕歴を消すためには、サイトの管理人一人ひとりと削除を求めて交渉するしかないのです。この点、弁護士であればあなたの代理人として、サイトの削除を求める交渉や法的手続きを行うことができます。弁護士が法的な知見と代理権をもって削除交渉を行うことにより、当事者個人で交渉するよりもより良い結果が期待できます。

5、前科を付けないためには

  1. (1)被害者と示談交渉

    前科を付けないためには、何よりも罪を犯さないことが重要です。万が一罪を犯してしまった場合は、逮捕されないこと、そして逮捕されてしまった場合は不起訴処分 を勝ち取るしかありません。

    そのためには、できるだけ早いタイミングで弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士はあなたにできる限り前科が付かないようさまざまな弁護活動を行います。

    被害者との示談交渉はそのひとつです。示談とは、民事上あるいは刑事上の紛争を、当事者どうしの話し合いで解決することです。被害者へ何らかの被害が生じている事件の場合、被害者からの被害届や告訴届の提出の中止、あるいは取り下げによって、逮捕を回避することが期待できます。早期に被害者と示談交渉を成立させておくことはとても重要なのです。

    被害者側との示談交渉に実績と豊富な経験とをもつ弁護士であれば、被害者の心情を量りながら丁寧な示談交渉を行います。その結果として、前科が付くことや、逮捕を回避することが期待できます。

  2. (2)捜査機関と交渉

    事件が発覚する前に捜査機関に自首することによって、あなたに証拠隠滅や逃亡のおそれはないと判断されると、逮捕される可能性は低くなります。

    弁護士は逮捕を回避するための内容を盛り込んだ弁護士名義の自首報告書を作成し、警察へ同行します。また、自首したあとも捜査機関と交渉し、あなたに逃亡や証拠隠滅はなく在宅事件が相当であり、逮捕の必要性はないと説得します。

    そして、在宅事件になった場合、あるいは逮捕されたとしても、不起訴処分や起訴猶予を得るために捜査機関と交渉します。

6、まとめ

何らかの事件を起こしてしまった場合、前科が付くことを防ぐためには早めに弁護士に相談して前科が付かない処分を得ることを目指すしかありません。また、前科が付いて逮捕歴等がインターネットに残っている場合は、弁護士に依頼することで速やかな削除が期待できます。

いずれにせよ、前科や逮捕歴についてお悩みの時は、弁護士にご相談することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスでは、刑事事件全般に関するご相談を承っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています