略式起訴とは? 罰金が払えないときはどうなるのか弁護士が解説

2021年03月01日
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略式起訴とは? 罰金が払えないときはどうなるのか弁護士が解説

群馬県の令和元年の刑法犯認知件数は、平成16年をピークに15年連続で減少を続けています(群馬県発表「犯罪情勢」より)。

戦後最少を記録したとはいえ、犯罪自体がなくなったわけではありません。たとえば、普段は犯罪と無縁の生活をしていても、酔った勢いで人ともめてしまい逮捕されてしまった……というケースは実際に起こりうることです。

逮捕された場合、略式起訴と通常の起訴とではその後の手続きが大きく分かれます。本記事では、略式起訴について、意味や手続きの流れについて詳しく説明します。

1、略式起訴とは

  1. (1)略式起訴となる犯罪

    略式起訴(刑事訴訟法上の正しい表現としては、「略式命令の請求」といいますが、本記事では「略式起訴」の単語を使用します。)とは、一般的な起訴手続きを簡略化した手続きで処分を終わらせる起訴方法のことを言います。100万円以下の罰金又は科料を科すのが相当な事件である場合に行うことができます。

    具体的には、交通事故を起こした場合(業務上過失致傷罪)、暴行・傷害事件、窃盗事件などで略式起訴を行うことが可能です。

  2. (2)略式起訴と通常の起訴との違い

    ① 裁判所に出頭する必要があるかどうか
    略式起訴と通常の起訴は、起訴された後判決が下されることは共通です。一般的な起訴のときは「公訴提起」がなされ、略式起訴が行われる場合は公訴提起に加え「略式命令の請求」がなされることになります。略式と公判の最大の違いは、被告人本人が裁判所に出頭するかどうかという点です

    通常の起訴では、公開の法廷に呼び出され、テレビドラマで見るような裁判が行われます。被告人質問や証人尋問も行われ、家族が情状証人として、事情を述べるために出頭することもしばしばあります。

    また、通常の起訴がなされた後の正式裁判は公開で行われます。そのため、誰でも刑事裁判を傍聴することができ、傍聴人の目の前で、犯したとされる罪の内容を読み上げられたり、被告人本人の名前を自ら述べる際に聞かれてしまいます。さらに、裁判手続は一度では終わらず、判決の言い渡しの日には改めて出頭する必要があります(1回で言い渡しまでなされる場合もあります。)。これが正式裁判と呼ばれる手続きです。

    一方、略式手続きは、被告人本人が裁判所に出頭する必要がありません証人尋問も行われず、したがって、傍聴人に事件に関する情報を知られるようなこともないのです

    では、どのように手続きが進むのかというと、すべては書面審査で進むことになります。裁判官が、検察官から受け取った略式起訴の起訴状と証拠書類を読んですべてを判断するのです。被告人の顔を見ることも反論を聞くこともなく、判決が下されます

    ② 略式命令で言い渡されるのは罰金か科料に限られる
    略式起訴後に言い渡される略式命令と通常の起訴後に言い渡される判決の違いのうち、重要なポイントは刑罰の違いです。

    略式起訴後に言い渡される略式命令の場合は、裁判所は罰金か科料しか言い渡すことができません略式起訴と決まれば、懲役刑や死刑、禁錮刑などが科せられる可能性はないというわけです

    しかも、略式命令の場合は、罰金の金額にも上限があります。正式裁判では犯した罪によっては数百万円の罰金が科されることもありますが、略式命令による罰金額は、1万円から100万円までと決まっています科料であれば1000円以上1万円未満です

  3. (3)略式起訴となる条件

    略式起訴では裁判所に出頭する必要がなく、100万円以下の罰金又は科料に限られるという点は、実際に罪を犯している被疑者にとっても負担が軽くなる面があるといえます。

    ただし、略式起訴が適用されるためには、以下3つの要件を満たしている必要があります。

    簡易裁判所管轄の事件であること
    略式起訴は簡易裁判所に対して行う必要があります。簡易裁判所に起訴できるのは、簡易裁判所に管轄が認められている軽微な犯罪だけと決まっています。

    法律上100万円以下の罰金又は科料が言い渡せる事件であること
    略式起訴では100万円を超える罰金を言い渡すことができません。したがって、そもそも刑法上の刑罰で、100万円以下の罰金刑や科料が定められている犯罪であることが要件です。懲役、禁錮刑・死刑に相当する犯罪や罰金刑や科料がそもそも定められていない犯罪では略式起訴は適用できません。

    略式起訴について、被疑者の異議がないこと
    略式起訴は、被疑者自身が略式起訴を受けることについて同意しなければ手続きを進められません。略式起訴への同意は、その前提として、被疑者自身、自分が有罪であることを認めている必要があります。別の言い方をすれば、被疑者自身が自分の罪を認め、しっかり反省して罰金を払う覚悟もあるから略式起訴で簡単に手続きを済ませてほしいという意思表示であるともいえるのです。

    他方、略式起訴に同意した時点でほぼ有罪が決まってしまうので、被疑者としては、その意思決定を慎重に行う必要があります。犯罪について身に覚えがない場合や、身に覚えがあるとしても、不起訴を求めたい場合には、略式起訴に安易に同意せずに拒否しなければなりません。

2、略式起訴までの流れ

  1. (1)逮捕から勾留を経て略式起訴されるまで

    警察が被疑者を逮捕した場合、原則として、逮捕時から48時間以内に、被疑者を釈放するか、事件を検察官に送る(送致)か、を判断することになります。

    事件が検察官に送られた場合、検察官は24時間以内、かつ、逮捕時から72時間以内に勾留請求を行うべきか判断します。その間、被疑者となった者は、身柄の拘束を受けることになります。家族や知人と面会することはもちろん、連絡することもできません

    勾留が決定した場合、期間は原則として勾留請求された時から10日間ですが、さらに最大10日間延長されることもあります。この勾留期間中は、接見禁止の処分がなされない限り、家族や知人との面会が許されます。とはいえ、警察の立ち合いが付き、面会時間も1回あたり15分から20分程度という制限があります。

    なお、弁護人(になろうとする者)と被疑者の面会のことを接見と呼びます接見では警察の立ち合いはなく、時間制限もありません。勾留前の段階である、逮捕から勾留決定までの期間であっても、弁護人との接見は可能です。

    勾留期間中に取り調べなどの捜査が行われ、その後、検察官から被疑者に対して、略式起訴についての打診があります。この打診に被疑者が応じると、略式起訴の手続きに進みます。

  2. (2)逮捕後に釈放された場合の流れ

    逮捕された後に勾留されることなく釈放されることがあります。被疑者に罪証隠滅や逃亡のおそれがないと判断された場合です。

    ただし、釈放されたからといって、捜査を始めとした刑事手続きが終わるわけではありません。警察から呼び出しを受けて取り調べを受ける可能性もありますし、場合によっては実況見分などへの立ち合いを求められることもあります。一連の捜査が終わると、略式起訴について打診される可能性があります。このときに略式起訴に同意すると略式手続に進みます。

3、略式起訴された後の流れ

  1. (1)起訴後の手続き

    検察官が裁判所に対して略式起訴の起訴状を提出すると、裁判所での書面審理が進められます。起訴状には証拠書類や証拠物も添えて提出されます。

    裁判所は略式起訴の内容に問題がなければ略式命令を発します。略式命令では、罰金か科料しか認められないため、「被告人を罰金○○円に処する。」などの内容が記載されます

  2. (2)略式命令に異議がある場合

    略式命令の内容に異議がある場合には、命令の告知を受けた日から14日以内に書面で正式裁判を申し立てることができます。この期間に異議を申し立てなければ、略式命令が確定します。

    なお、異議を申し立てる権利は、被告人だけではなく検察官にも認められています。命令が重すぎると思えば被告人が異議を申し立てますし、命令が軽すぎると思えば、検察官がさらに重い刑罰を求めて異議を申し立てることになるのです。

    なお、被告人がもっと軽い刑罰を求めて異議を申し立てた場合でも、正式裁判ではさらに重い判決が出される可能性があります。異議を申し立てる際には、刑事事件の経験豊富な弁護士に相談して、見通しをしっかり立てることが重要です。

  3. (3)罰金の納め方

    罰金刑が確定すると、所定の期間内に検察庁に罰金を納付しなければなりません。

    金融機関か検察庁の窓口で支払うことができます。罰金を支払わずに放置していると、本人名義の財産に強制執行をされる可能性があります。

    また、強制執行の対象となる財産がない場合には、労役場に留置されてしまいます。これを「労役場留置」といいます。具体的には、刑務所(刑事施設内の労役場)に留置され作業を行わなければならなくなります。1日の留置を一定の罰金額相当として計算します。たとえば、1日あたり5000円と換算する場合、罰金30万円であれば60日間労役場に留置されることとなります。

4、家族が逮捕されたら、早めに弁護士にご相談を

  1. (1)前科がつくデメリットを理解しておく

    略式起訴は、正式な刑事裁判とは異なって簡易な手続きですしかし、いくら簡易とはいえ、略式命令が確定すれば、まぎれもない前科に該当します

    前科があると、今後の転職などで不利益になる可能性は否定できません。略式起訴だからといって安易に考えることなく、前科がつくことのデメリットについて認識しておきましょう。

  2. (2)不起訴を目指す方向もある

    略式起訴について打診された場合は、そもそも犯罪自体が軽微であり、事情によっては不起訴となる可能性もあるかもしれません不起訴になれば、前科はつきませんし、もちろん罰金を払う必要もありません

    しかし、被疑者自身が略式起訴に同意してしまうと、不起訴となる可能性を放棄したことになってしまいます。不起訴を目指すのか、略式起訴で納得するのか、その判断の前に弁護士に相談してみる価値は高いでしょう。

    なお、傷害事件や窃盗事件のように、被害者がいる犯罪の場合、加害者と被害者と示談ができているかどうかが不起訴になるための最重要ポイントです。弁護士に依頼することで被害者との示談手続きが進む可能性がありますので、その観点からも弁護士に早めに相談してみるとよいでしょう

  3. (3)略式命令が出たときに素早く対応する

    略式命令の内容に不服がある場合、異議を出せる期間はわずか14日間と短く、略式命令が出されてから相談先を探していては間に合わない可能性があります。早めに弁護士に相談しておけば、略式命令が出た際に、それが適切な内容なのかを判断することができます

    もっとも、刑罰の重さは、刑事事件の経験豊富な弁護士でなければ的確に判断することは困難です。相談する場合には、刑事事件の実績などを確認して、信頼できる弁護士に依頼するようにしましょう。

5、まとめ

人生は予想外の連続であり、どんな事件が起きても冷静に対処していくしかありません。家族の逮捕は、親族にとっては大事件です。動揺するのは当然ですが、早めに対処することで最善の選択をとることができます。

刑事手続きは、犯罪の内容や事情によって、刑罰が大きく異なります。略式起訴は正式裁判に比べれば簡易で軽く済むものですが、前科がつくことには変わりありません。逮捕や前科は、本人だけの問題ではなく、家族への影響も大きいものです。

ベリーベスト法律事務所では、刑事事件に対応可能な弁護士が在籍し、相談をお受けしています。逮捕から裁判手続きまで、順を追って丁寧にご説明します。ひとりで悩まず、まずはご相談ください。

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