2021年に施行された改正動物愛護法でブリーダーが逮捕されうるケース

2022年03月08日
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2021年に施行された改正動物愛護法でブリーダーが逮捕されうるケース

令和2年度末時点において群馬県内で登録されている犬の頭数は10万7609頭です。多くの方がペットと楽しく過ごされているとともに、ブリーダーとして活躍されている方もいらっしゃるでしょう。

動物を育てるブリーダーは、人と動物が共生する社会の実現を目的とする「動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)」の内容を踏まえて、動物愛護法の遵守に努める必要があります。もし動物愛護法に違反し、違反内容が悪質である場合には、逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れが高いと判断され、警察に逮捕されてしまう可能性があるでしょう。

本コラムでは、令和元年に改正法が成立し、令和2年から3年にかけて順次施行された改正動物愛護法の内容や、動物愛護法違反でブリーダーが逮捕されるケース・刑罰の内容などを中心に、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説します。

1、令和3年(2021年)に改正法が施行した改正動物愛護法と主な変更点

令和2年6月1日に改正動物愛護法が一部を除いて施行され、令和3年6月1日にも、未施行となっていた規定の一部が追加で施行されました。さらに、令和4年6月1日に、残る改正法規定を含めた全面施行が予定されています。

ブリーダーの方は、改正法の内容を含めて、動物愛護法の遵守に努めなければなりません。

  1. (1)動物愛護法とは?

    動物愛護法は、「人と動物の共生する社会の実現」(同法第1条)を目的とする法律です。

    動物の虐待や遺棄の防止、動物の適正な取り扱い、その他動物の健康や安全の保持等について、さまざまなルールを定めています。

  2. (2)令和2年~令和4年にかけて施行される改正法の概要

    令和2年から令和4年にかけて3回にわたり順次施行される改正動物愛護法の主な変更点は、以下のとおりです。

    <令和2年6月1日施行分>
    ① 動物の飼養・保管に関する基準の遵守(同法第7条)
    動物の所有者・占有者は、環境大臣が関係行政機関の長と協議して定めた基準を遵守する必要があります。

    ② 第一種動物取扱業による適正飼養等の促進
    動物の販売業などを内容とする第一種動物取扱業について、以下の規制強化が行われました。
    • 心身の故障等による登録拒否事由の追加(同法第12条)
    • 販売時における対面での情報提供の義務化(同法第21条の4)
    • 帳簿の備付け等の義務の対象を第一種動物取扱業者のうち動物の販売、貸出し、展示等の取扱業者及び第二種動物取扱業者まで拡大(同法第21条の5、第24条の4第2項)
    • 動物取扱責任者の選任を十分な技術的能力及び専門的知識経験を有する者のうちからとする要件の適正化(同法第22条)
    • 勧告に従わない業者の公表制度の新設(同法第23条)
    • 登録の取消等を受けた第一種動物取扱業者等に対する取消後2年間、勧告、命令、報告及び立入検査を可能とする監督強化(同法第24条の2)

    ③ 動物の適正飼養のための規制強化
    業者以外の動物所有者・占有者に対しても、動物の飼養を適正化する目的で、以下の規制強化が行われました。
    • 都道府県知事等による不適正飼養に係る指導等の拡充(同法第25条)
    • 特定動物(人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれがある動物)を愛玩目的で飼養、保管することの禁止等(同法第25条の2、第26条)
    • 犬、猫の繁殖制限の義務化(同法第37条)


    <令和3年6月1日施行分>
    ① 幼齢の犬・猫に係る販売等の制限
    天然記念物である犬を除き、幼齢の犬・猫に係る販売等の制限に関する激変緩和措置が廃止され、出生後56日を経過しない犬、猫の販売が禁止されました(同法第22条の5)。

    ② 遵守基準の具体化
    第一種動物取扱業者が遵守すべき基準の具体化が定められました(同法第21条)。


    <令和4年6月1日施行分(予定)>
    犬猫などを販売する業者にはマイクロチップの装着義務が課され、さらに飼い主に対しても、マイクロチップの装着が努力義務化される予定です(改正法第39条の2)。
    それに伴い、マイクロチップで管理する犬猫の登録制度が新たに導入されます(改正法第39条の5、第39条の7、第39条の10)。

2、動物愛護法違反でブリーダーが逮捕される主なケース

動物愛護法違反の行為には、その悪質性に応じて刑事罰が設定されています。

たとえば以下の行為をした場合には、動物愛護法違反で逮捕されるおそれがあるので要注意です。

① 愛護動物をみだりに殺傷した場合など
愛護動物に対する、正当な理由のない殺傷・暴行その他の虐待行為は厳しく罰せられます(動物愛護法第44条)。

なお「愛護動物」とは、以下の動物を指します。

  • めん羊
  • 山羊
  • いえうさぎ
  • いえばと
  • あひる
  • その他の人が占有する哺乳類、鳥類、爬虫類


② 無許可で特定動物を飼養・保管した場合
動物愛護法施行令別表で定められる「特定動物」を飼育するには、原則として都道府県知事の許可を受けなければならず(同法第25条の2、第26条)、無許可での飼養・保管は厳しく罰せられます(同法第45条第1号)。

③ 無登録で動物の販売業などを営んだ場合
以下の行為を業として行う場合、都道府県知事の登録を受ける必要があり(同法第10条第1項)、無登録での営業は厳しく罰せられます(同法第46条第1号)。

  • 動物の販売
  • 動物の保管
  • 動物の貸し出し
  • 動物の訓練
  • 動物の展示
  • 競り会場を設けて動物の売買のあっせんを行うこと
  • 動物を譲り受けてその飼養を行うこと(譲渡人が飼養費用の全部または一部を負担する場合に限る)

3、動物愛護法違反で有罪となった場合、科される刑罰は?

動物愛護法違反で逮捕・起訴されて有罪となった場合、最高で5年以下の懲役、500万円以下の罰金が科されます

また法人の場合は、5000万円以下の罰金が科されるケースもあるので要注意です。

  • 愛護動物をみだりに殺し、または傷つけた場合
5年以下の懲役または500万円以下の罰金
※法人についても両罰規定あり(500万円以下の罰金)
  • 愛護動物に対し、みだりに暴行を加えた場合や、他人に暴行させた場合
  • 愛護動物への給餌や給水をみだりに辞めた場合
  • 愛護動物をみだりに酷使した場合
  • 愛護動物をみだりに、健康・安全を保持することが困難な場所に拘束した場合
  • 過度な多頭飼育によって愛護動物を衰弱させた場合
  • 疾病にかかり、または負傷した自己の飼育する愛護動物に対して、適切な保護を行わない場合
  • 劣悪な環境で飼養・保管するなどの虐待を行った場合
1年以下の懲役または100万円以下の罰金
※法人についても両罰規定あり(100万円以下の罰金)
  • 愛護動物を遺棄した場合
1年以下の懲役または100万円以下の罰金
※法人についても両罰規定あり(100万円以下の罰金)
  • 特定動物を無許可で飼養し、または保管した場合
  • 不正の手段により、特定動物の飼養・保管の許可を得た場合
  • 特定動物の飼養・保管に関する一定の事項を無許可で変更した場合
6か月以下の懲役または100万円以下の罰金
※法人についても両罰規定あり(5000万円以下の罰金)
  • 無登録で動物の販売業などを営んだ場合
  • 不正の手段により、動物の販売業などの登録を受けた場合
  • 都道府県知事の業務停止命令に違反した場合
  • 第一種動物取扱業者・第二種動物取扱業者・特定動物飼養者が、都道府県知事の措置命令に違反した場合
100万円以下の罰金
※法人についても両罰規定あり(100万円以下の罰金)
  • 騒音・悪臭・毛の飛散・昆虫の発生等に関する措置命令に違反した場合
50万円以下の罰金
※法人についても両罰規定あり(50万円以下の罰金)
  • 動物の販売業などに関する登録事項の変更について届出義務を怠り、または虚偽の届出をした場合
  • 所有する犬猫等が死亡した際に、都道府県知事による検案書・死亡診断書の提出命令に違反した場合
  • 第一種動物取扱業者・第二種動物取扱業者・特定動物飼養者が、都道府県知事の報告要求を無視し、もしくは虚偽報告を行い、または検査を拒否・妨害・忌避した場合
30万円以下の罰金
※法人についても両罰規定あり(30万円以下の罰金)
  • 動物の飼養・保育の状況等に関する報告義務に違反した場合など
20万円以下の罰金
※法人についても両罰規定あり(20万円以下の罰金)


実際の刑事手続きにおいて、被告人に科される量刑は、犯罪行為の悪質性や情状などを総合的に考慮して決定されます。

4、動物愛護法違反について警察から連絡を受けたら弁護士に相談を

動物愛護法違反に関して警察から連絡を受けた場合、犯罪の嫌疑があるとして捜査が行われている可能性が高いです。そのため、できる限り早い段階で弁護士にご相談のうえ、弁護活動をご依頼いただくことをおすすめします。

早期に弁護活動を開始することで、逮捕などの身柄の拘束を受けてしまう事態を回避したり、逮捕されても早期に釈放されたり、起訴猶予(不起訴)処分を得られる可能性が高まります。

なお、万が一起訴されてしまった場合には、できる限り重い処分(判決)が下されないよう、適時適切な弁護活動をとることが必要です。弁護士を通じて、裁判官に反省の気持ちを真摯に伝え、更生に向けたビジョンを示すことにより、言い渡される量刑を軽減できる可能性があります。

動物愛護法違反の疑いで、警察から出頭を求められた場合などには、お早めに弁護士までご相談ください

5、まとめ

動物愛護法の規制を十分に知らずにブリーダー活動を行っていると、思わぬ部分で規制に違反してしまい、捜査機関に訴追されてしまうことになりかねません。特にこれまでの商習慣として常習化していた幼齢の犬・猫に係る販売に関係する部分など、改正された部分には注意が必要でしょう。

必要に応じて弁護士のアドバイスを受けながら、動物愛護法の遵守に努めることをおすすめします。ベリーベスト法律事務所では、刑事事件化してしまったときの対応はもちろん、動物愛護法に関するブリーダーの方からのご質問を随時受け付けております。警察から連絡が来たときには、できるだけ早期にベリーベスト法律事務所へご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています