割引シールの貼り替えは犯罪になる? 適用される罪名と逮捕の可能性

2021年08月30日
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割引シールの貼り替えは犯罪になる? 適用される罪名と逮捕の可能性

令和2年12月、スーパーで商品に「半額」のシールを貼って商品を不正に安い金額で購入した女が私人逮捕されたという報道がありました。

同様の事件は全国で発生していますが、近年ではレジ係員による入力ではなく、客自身がレジ入力と代金支払いを機械で行うセルフレジの導入が増えており、店舗側は不正行為に対する監視の目を強めています。

割引シールの貼り替え行為は、どのような罪にあたり、どのような罰を受けるのでしょうか?逮捕の可能性も交えながら、高崎オフィスの弁護士が解説します。

1、割引シールの貼り替えで問われる罪と罰則

割引シールの貼り替え行為が不正であることは誰が考えても明らかですが、どのような罪にあたるのかは詳しく知らない方も多いはずです。

まずは、割引シールの貼り替え行為で問われる罪と罰則を確認していきましょう。

  1. (1)詐欺罪

    割引シールを貼り替える行為は、レジ係員に「割引品である」と誤信させることで正規の価格と割引後の価格の差額分について支払い義務を免れたことになります支払い義務を免れる行為は財産上不法な利益にあたるため、詐欺罪の成立は免れません

    詐欺罪は刑法第246条に規定されている犯罪です。ウソをついて相手を信用させたうえで、財物をだまし取る、または財産上不法な利益を得る行為を罰するものです。

    刑法上、詐欺罪は1項においては財物をだまし取る行為を、2項では財産上不法の利益を得る行為を罰していることから、それぞれ「1項詐欺」「2項詐欺」と呼びます。割引シールの貼り替え行為によって不正に割引を受けた場合は2項詐欺にあたります。

    詐欺罪の法定刑は、1項・2項ともに10年以下の懲役です罰金の規定はないため、有罪となった場合は確実に懲役が下される重罪だといえます

  2. (2)電子計算機使用詐欺罪

    前述の詐欺罪が成立するのは、レジ係員が商品を確認しながらレジ入力して代金を計算するシステムのケースです。

    他方、近年増加しているセルフレジの場合では、レジ係員による確認、入力作業がないため、割引シールを不正に貼り替えても「だます」という行為をはたらく相手が存在せず、詐欺罪が成立しませんもっとも、刑法第246条の2の「電子計算機使用詐欺罪」に該当します

    電子計算機使用詐欺罪とは、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報または不正な指令を与えて財産権の得喪(とくそう/得たり失ったりすること)、もしくは変更にかかる不実の電磁的記録を作ることで、財産上不法の利益を得た者を罰する犯罪です。

    具体的には、次のような構図で、電子計算機使用詐欺罪が成立します。

    • 人の事務処理に使用する電子計算機……セルフレジの機械
    • 虚偽の情報……不正に貼り替えた割引シールのバーコード
    • 財産権の得喪(とくそう)もしくは変更にかかる不実の電磁記録を作る……正規の価格ではなく割引価格で計算させる
    • 財産上不法の利益を得る……正規の価格と割引価格との差額分の支払いを免れる


    法定刑は詐欺罪と同じく10年以下の懲役です

    レジ係員の確認を受けないからといって安易に不正をはたらいていると、懲役刑を科せられるおそれがあります。

  3. (3)窃盗罪

    セルフレジにおける割引シールの貼り替え行為には、刑法第235条の「窃盗罪」が適用されるケースもあります

    窃盗罪は、他人が占有する財物を窃取した場合に成立する犯罪なので、不正な方法で割引価格になっているとはいえ、商品代金の一部は支払っているので「盗んだ」とはいえないのではないかという疑問もあるでしょう。

    窃盗罪が適用されるケースでは、詐欺罪や電子計算機使用詐欺罪のように「商品代金をいくら支払うか」に注目するのではなく「商品そのもの」に注目しています。不正な方法で会計する行為は、商品そのものを手に入れるための手段であって、このことを「店舗が占有する商品を窃取した」ととらえ、どの程度の金額を支払ったのかは問題としないわけです。

    なお、セルフレジでの不正行為のなかには、割引シールの貼り替えだけでなく、商品バーコードを正しくスキャンしない、いわゆる「かごぬけ」行為も散見されます。かごぬけ行為は商品代金を支払わずに商品を持ち去る万引きと同じなので、適用されるのは詐欺罪などではなく窃盗罪です。

    窃盗罪は刑罰として10年以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されています。罰金刑が設けられており、略式手続が想定できる点では詐欺罪・電子計算機使用詐欺罪よりも軽いといえますが、懲役の上限は同じなので厳しい刑罰が定められているものと考えるべきです。

2、発覚した後の流れ

割引シールの貼り替え行為が発覚すると、その後はどのような流れで手続きが進むのでしょうか?

  1. (1)逮捕後の流れ

    店員・警備員や通報を受けて駆けつけた警察官に逮捕されると、警察の段階で最大48時間、送致を受けた検察官の段階で最大24時間、合計で72時間以内の身柄拘束を受けます。さらに、検察官からの請求を裁判所が認めると勾留手続としての身柄拘束となり、原則10日間、延長によってさらに最大10日間、最長で20日間の身柄拘束が続きます。

    勾留が満期を迎える日までに検察官が起訴すると刑事裁判へと移行し、有罪であれば刑を言い渡されます。

  2. (2)在宅事件の流れ

    詐欺罪や窃盗罪の嫌疑をかけられたとしても、必ず身体拘束されるわけではありません素直に罪を認めて逃亡や証拠隠滅のおそれがないといえる場合や、被害額が比較的に少額で悪質性も高くない場合では、身体拘束されることなく捜査が実施されます

    自宅から警察署などに出頭して取り調べなどの捜査を受けることから「在宅事件」と呼ばれます。取り調べやそのほかの捜査を受けるという点では、身体拘束されている事件も在宅事件も変わりはありません。

    しかし、在宅事件では身柄拘束を受けないので、自宅へ帰ることも、会社や学校へと通うことも自由です。取り調べが行われる場合でも、ある程度は日常生活に配慮をしてもらったうえで出頭する日程を決めることもできるので、社会生活への影響も最小限に抑えられるでしょう。

    警察による捜査を終えると検察官へと送致されますが、検察官の段階でも身体拘束を受けずに任意での捜査、取り調べが行われます。検察官が起訴する際も在宅起訴となり、期日に裁判所に出頭して審理を受けるので、実刑判決が下されない限りは社会から隔離されることなく事件の手続きが終了します。

3、弁護士がサポートできること

割引シールの貼り替えが発覚してしまった場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。

  1. (1)被害者との示談交渉

    弁護士に依頼すれば、代理人として被害者である店舗側との示談交渉を進めることが可能です

    店舗側に謝罪したうえで深い反省の意思を伝え、被害額の弁済を尽くして被害届の取り下げてもらえれば、検察官が不起訴処分を下す可能性が高いでしょう。

    なお、特にチェーン展開している店舗(フランチャイズを含む)の場合、示談を受けるか否か、被害届を取り下げるか否かなどが、内部のマニュアルによって決まっていると思われる場合が多く、交渉が難航したり、そもそも示談の申入れを受け付けてもらえなかったりするケースもあります。

  2. (2)取り調べに際してのアドバイス

    取り調べにおける不用意な発言で不利な状況を招かないためには、どのような供述をすればよいか悩まれることでしょう。弁護士に相談すれば、警察官・検察官による取り調べに際して、供述内容や対応についてのアドバイスが得られます

    特に、無実であるのに疑いをかけられており自白を強要されている、暴行や脅迫まがいの取り調べを受けているといったケースでは、弁護士からの抗議によって改善される可能性もあるので、積極的に相談しましょう。

  3. (3)処分の軽減を目指した弁護活動

    以前にも同様の割引シール貼り替えが発覚して事件になってしまったことがある、万引きなどの前科・前歴があるといったケースでは、検察官が起訴に踏み切るおそれが高まります。

    厳しい処分が予想される状況でも、弁護士のサポートを得れば、深く反省の意思を示している、家族による監督環境を強化するといった主張によって処分が軽減される可能性が高まるでしょう

4、まとめ

割引シールの貼り替え行為によって商品の購入価格を不正に安くする行為は、詐欺罪などの犯罪に該当します。

近年になって増加しているセルフレジでは、レジ係員による確認がないので不正行為をしても発覚しないと考えがちですが、これまで以上に警戒が強まっているので、発覚する危険はより高まっていると考えるべきです。

割引シールの貼り替え行為が発覚して罪を問われる事態に発展した場合は、逮捕や厳しい処罰を避けるためにも弁護士のサポートは欠かせません。店舗側との示談交渉や弁護活動は、刑事事件の解決実績があるベリーベスト法律事務所 高崎オフィスにお任せください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています