引っ越し費用など離婚や別居時に必要な費用はどこまで請求できるのか
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結婚と離婚は表裏一体であり、誰しもその危機に直面しかねません。高崎市が公表している統計季報によると、令和5年1年間の離婚件数は527件だったとのことです。
離婚や別居をして新たな生活を始める際、引っ越しすることになるケースがほとんどでしょう。離婚後については、高崎市では離婚した方が自立して生活をするためのさまざまな支援が行われています。では、引っ越しの際に必要な費用はといえば、原則ご自身で準備する必要があるケースがほとんどです。
では、配偶者に請求できるのでしょうか。今回は離婚や別居の際に生じる引っ越し費用の請求について、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説します。別居・離婚を検討している方のお役に立てると幸いです。
1、離婚や別居の際に、配偶者に請求できる可能性がある費用
離婚や別居の際は、配偶者に対して以下の費用を請求できる可能性があります。
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(1)別居のときに請求できる費用
離婚前の別居の際に請求できる費用は「婚姻費用」です。結婚している夫婦は相互に扶助をしなければならない義務があり、別居中であってもその義務を免れることはできません。家計の収入の大半を担っていた方に対して、扶養されていた方が婚姻費用として一定の生活費を請求できます。
婚姻費用の金額は、双方の収入や子どもの有無、年齢、人数によって異なります。婚姻費用は、別居してから離婚が成立するまで毎月請求可能です。 -
(2)離婚のときに請求できる費用
離婚のときに請求できる費用は以下の通りです。
● 慰謝料
離婚の理由が配偶者にある場合で、それが不貞行為やDVなどの不法行為によるものであれば不法行為によって生じた損害の賠償を請求可能です。離婚の場合は、一般的には精神的な苦痛を賠償してもらうための慰謝料を請求することになります。ただし、これらの請求をする場合にも、相手方が任意に支払わない場合には最終的には訴訟によることになりますので、それに備えて不貞行為やDVなどの証拠を集めておくことが重要です。
● 養育費
未成年の子どもがいる場合は、子どもが独立するまで、一般的には子どもが成人する20歳まで養育費を請求することが可能です。
● 財産分与
夫婦が結婚してから別居するまでに、住宅、車や預貯金など夫婦の協力によって増やした財産、ためた財産は夫婦の共有財産とされます。共有財産は原則2分の1ずつ分割します。夫婦の収入の多寡や財産の名義は問いません。
本章で解説した別居時や離婚時に請求できる費用を適切に請求し、支払ってもらえるかどうかによって、今後の新たな生活が大きく変わりかねません。交渉に不安がある方や、請求できる金額の目安がわからない場合は、弁護士に相談してください。ご相談すべきタイミングは、別居や引っ越しなどの行動に移す前など、早い段階であればご提案できることが増えるケースがほとんどです。
お問い合わせください。
2、意外とかかる引っ越し費用の請求はどこまで可能なの?
離婚・別居の際にご自身が新たな家に出て行く場合には、引っ越しが必要です。引っ越し業者に支払う引っ越し代だけでなく、新しい家の敷金や礼金、仲介手数料、家財などもそろえなければならず、合計すると100万円を軽くこえてしまう場合もあります。ではこれらの費用は一体どこまで請求可能なのでしょうか。
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(1)引っ越し費用は法的に請求が認められているものではない
実は、引っ越し費用は別居や離婚時に請求が認められている費用ではありません。別居時は、婚姻費用を請求可能ではありますが、婚姻費用はあくまでも生活費であり引っ越しのための費用ではないのです。
また、離婚時の財産分与や慰謝料請求においても「引っ越し費用」といった費目はありませんので、財産分与や慰謝料、ご自身の独身時代の預貯金等から捻出しなければなりません。 -
(2)引っ越し費用の請求は交渉次第
引っ越し費用は法的に請求が認められているお金ではないものの、「任意」での交渉で配偶者が了承をすれば支払ってもらうことはできます。
調停や訴訟などの、家庭裁判所を経た手続きの中で認められることは難しいですが、話し合いによって合意が得られればよいのです。
3、引っ越し費用の交渉タイミングと交渉成功のヒント
次に引っ越し費用について交渉するベストなタイミングと交渉成功のヒントを解説します。
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(1)交渉タイミングは別居、離婚前
引っ越し費用について交渉する最適なタイミングは、別居前、離婚前です。すでに引っ越しをして、ご自身が費用を負担してしまっている段階で交渉をしても、配偶者は別居という成果を実現しているため、支払いを受けるのは困難であると考えられます。
しかしながら別居前、離婚前であれば、配偶者が別居を望んでいればそれを実現するため交渉の余地は残っていますので諦めずに引っ越し費用の支払いを求めるとよいでしょう。 -
(2)相手方が別居や離婚を希望している場合の交渉
配偶者が別居や離婚を希望している場合の交渉は、比較的容易です。離婚をスムーズに認める代わりに、引っ越し費用を負担するようにともちかければよいのです。配偶者が一刻も早く別居、離婚を望んでいる場合には支払ってもらえる可能性が高いといえます。
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(3)相手方が別居や離婚を希望していない場合の交渉
相手方が離婚を希望していないときに、引っ越し費用を請求しても支払いに応じる可能性は低いといえます。離婚をしたくないわけですから、離婚の背中を押すような行動を支援する方は少ないでしょう。
それでも、相手方に不貞行為や暴力、モラハラ、セックスレスなどの落ち度があった場合には、慰謝料に上乗せをする形での引っ越し費用の請求は不可能ではありません。相場をこえる慰謝料の請求は難しいものですが、相手の行為の悪質度によっては可能性がでてきます。
また、財産分与や養育費等の請求が可能な場合は、それらの費用を引っ越し代に充当するのが現実的です。
4、離婚や別居に伴う引っ越しの際に考慮すべきこと
離婚や別居のための引っ越しを検討している場合は以下の点を考慮しておきましょう。
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(1)新居の入居審査
離婚や別居のために引っ越しを検討している方で、収入が低い方、収入がない方は家賃の支払いに不安を持たれがちですので賃貸住宅への入居審査に通過しないリスクがあることを念頭にいれておきましょう。
離婚、別居予定日の直前になって行動するのではなく、ある程度の期間を設けてじっくりと物件を探す必要があります。 -
(2)持っていく家財道具
引っ越しの際に持っていく家具や家電は、配偶者と話し合っておく必要があります。結婚中に購入したテレビや洗濯乾燥機、家具等は夫婦の共有財産となりますので、勝手に持ち出すと、トラブルに発展する可能性もあります。
実際に、離婚に関する訴訟の中で、引っ越しの際に持ち出したテレビについて争われた事例もありますので、無断で持ち出さないようにしましょう。 -
(3)別居・離婚後の生活費
別居、離婚後の生活費について、必ずめどを付けてから引っ越しをしましょう。別居の場合は婚姻費用を受け取れますが、それだけで生活をするのは困難な金額です。婚姻費用も配偶者が必ず支払ってくれるという保証もありません。
離婚の場合は、生活費を受け取ることはできませんので、自分で生活費のすべてを支払わなければなりません。収入が低く、子どもがいる場合には、児童扶養手当や児童手当、自治体によっては自治体独自の児童養育手当を設けている場合には請求が可能です。ご自身の収入と公的扶助を合計して、生活が成り立つかどうかを冷静に検討しておいてください。 -
(4)子どもの保育園、幼稚園や教育機関の学区
子どもがいる場合、保育園や幼稚園の転園の可能性、また小中学校の学区変更の可能性も考慮した上で、引っ越し先を決めましょう。転校が必要となる場合には市の教育委員会へあらかじめ手続きを問い合わせることも必要でしょう。
すでに子どもが小学校に入学している場合には、すでに友だちもでき転校を嫌がることもあります。子どもの教育環境、気持ちを考慮した上で引っ越し先を検討するようにしておいてください。 -
(5)婚姻費用や養育費の請求
別居の際は婚姻費用、子連れで離婚をする場合は養育費の請求が可能です。いずれも毎月支払ってもらうものであり、合計すると大きな金額になります。いずれも、別居、離婚前に婚姻費用や養育費の額を協議して、額、支払い時期など約束を取り付けておきましょう。支払金額、支払い頻度だけでなく、支払いが履行されなかった場合の対応も考慮した取り決めが必要です。
婚姻費用も養育費も、執行認諾文言付き公正証書を作成しておくと、不払いになった場合に法的措置を講じやすくなります。公正証書は各地の公証役場で公証人に相談して作成します。
配偶者が高収入の場合、子どもがいる場合は支払いを継続してもらうために、弁護士に交渉を依頼しておくことを強くおすすめします。 -
(6)子どもがいる場合は連れ去りに注意を
子どもを連れて別居する場合、気を付けなければならないのは子どもの連れ去りです。親である配偶者の同意なく子どもを突然連れ去った場合、後の交渉で不利になるリスクがあります。親権を争うことになった場合、無断の連れ去りの事実があると、裁判所が不利な要素とみなし親権が認められない可能性があるのです。
子どもと共に別居をする場合は、十分に話し合いをして配偶者の了承を得ておきましょう。
5、まとめ
配偶者に原因があり、別居、離婚を検討する場合であっても引っ越し代の請求が認められるとは限りません。それでも、配偶者との任意の交渉で支払ってもらえる可能性はありますので、別居、離婚前に支払いを請求してみるとよいでしょう。
また、別居離婚の際は、婚姻費用や養育費、財産分与や慰謝料の請求ができる可能性があります。配偶者になんらかの費用を請求できる可能性がある方は、ご自身で対応せずに弁護士にご相談ください。弁護士がご自身に代わって額の算定から交渉までより有利に進めることが可能となります。
ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスでは別居や離婚に伴い、何をどれだけ請求できるか、相手と話し合いができないなどの方からのご相談をお待ちしております。親身になってヒアリングをし、「今できること」と「やるべきこと」を提案いたしますので、遠慮なくお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています