拘禁刑が新設? 懲役との違いと刑法改正について弁護士が解説
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刑法等の一部を改正する法律案が令和4年6月13日の参議院本会議で可決し、成立しました。これまであった「懲役刑」と「禁錮刑」が廃止され、新たに「拘禁刑」が創設されます。この刑法改正では、明治40年に刑法が制定されてから初めてとなる刑の種類と名称の変更が行われることになっています。
このような法改正にはどのような背景があったのでしょうか。また、拘禁刑が新設されることによって、これまでの刑罰との間にどのような違いが生じるのでしょうか。
今回は、刑法改正によって新たに設けられた拘禁刑について、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説します。
1、刑法改正が検討される背景
刑法改正によって拘禁刑が新設された背景にはどのような事情があるのでしょうか。以下では、拘禁刑が新設された背景と拘禁刑新設による影響について説明します。
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(1)拘禁刑が新設された背景
法務省の説明によると、拘禁刑を新たに設けた目的としては、刑事施設における受刑者の処遇のより一層の充実を図る目的があるとされています。すなわち、現状の懲役刑と禁錮刑の区別では、受刑者の処遇に関して以下のような不都合があると考えられているからです。
① 受刑者の改善更生が図れない
令和3年版犯罪白書によると、令和2年に刑法犯によって検挙された人のうち再犯者の人員は、8万9667人であり、再犯率(刑法犯検挙者に占める再犯者の割合)は、49.1%でした。再犯者の人員は、平成18年をピークに減少していますが、再犯率については、平成9年以降増加傾向にあります。
このような統計からは、懲役刑または禁錮刑によって刑務所に収容された犯罪者が出所後、再び罪を犯す傾向にあることがわかるでしょう。それはつまり、刑務所の受刑者に対する改善更生教育や再犯防止指導に関して、まだ改善の余地があることを意味します。
そこで、懲役刑および禁錮刑を廃止して、新たに拘禁刑を設けることが検討されました。実現すれば、受刑者の特性に応じた作業や指導を行うことを可能にし、それによって、社会復帰後の再犯防止を図ることを目的としています。
② 懲役刑と禁錮刑の区別の実益がない
懲役刑と禁錮刑の違いについては、詳しくは後述しますが、簡単にいえば、刑務所での刑務作業が課されるのが懲役刑で、刑務作業が課されないのが禁錮刑です。このように法律上は、刑務作業の有無によって懲役刑と禁錮刑は区別されますが、実際の運用においては、その区別の実益が失われています。
犯罪白書によると、令和2年に懲役刑によって刑務所に収容された人員は、1万6,562人であるのに対して、禁錮刑によって刑務所に収容された人員は、53人でした。刑務所に収容された全体の人員でみると、禁錮刑によって収容された人員は、全体のわずか0.3%程度であることがわかります。また、禁錮刑で収容された受刑者も希望をすることによって、懲役刑で収容された受刑者と同様に刑務作業に従事することができ、実際にもほとんどの禁錮刑受刑者が刑務作業を行っています。
このように、実際の運用において、懲役刑と禁錮刑を区別して設ける実益がないということも拘禁刑創設の背景にあると考えられています。 -
(2)拘禁刑が新設されたことで変わること
拘禁刑の新設によって、以下の点が変わると考えられます。
① 刑務作業が義務ではなくなる
現行の刑法では、懲役刑の受刑者に対しては、刑務作業が義務付けられていました(現行刑法12条2項)。これに対して、改正刑法では、拘禁刑受刑者に対して必要な作業を行わせることが「できる」と規定されており(改正刑法12条3項)、刑務作業が義務ではなくなっています。
改正刑法のもとでは、刑務所が受刑者本人の更生のために必要と判断した場合に限り、刑務作業が義務付けられることになります。
② 再犯防止に向けた柔軟な処遇が期待できる
これまでは刑務作業があるために、再犯防止に向けた更生プログラムの実施をする時間を十分に確保することができない状況でした。
しかし、拘禁刑が新設されたことによって、受刑者の特性に応じて刑務作業と矯正教育を実施することができますので、再犯防止に向けた柔軟な処遇を期待することができます。
2、拘禁刑、禁錮刑、懲役刑の違い
新たに設けられた「拘禁刑」と、従来の「禁錮刑」、「懲役刑」とではどのような違いがあるのでしょうか。
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(1)拘禁刑とは
拘禁刑とは、受刑者の身体を刑事施設に拘束する刑罰のことをいいます。刑法改正によって新たに設けられた刑の種類であり、従来の「禁錮刑」と「懲役刑」を廃止し、拘禁刑に自由刑が一本化されることになりました。
拘禁刑では、受刑者の更生にとって必要であれば、刑務作業を行わせることもできますし、矯正教育を実施することも可能です。 -
(2)禁錮刑とは
禁錮刑とは、受刑者の身体を刑事施設に拘束する刑罰のうち、刑務作業が義務付けられていないものをいいます。刑務作業が義務付けられていないという点で懲役刑よりも軽い刑罰であるとされていますが、その間自由に動き回れるわけではなく、看守により監視されていますので、考え方によっては禁錮刑の方が厳しいと感じる方もいるかもしれません。
なお、禁錮刑受刑者であっても希望をすれば刑務作業を行うことは可能です。 -
(3)懲役刑とは
懲役刑とは、受刑者の身体を刑事施設に拘束する刑罰のうち、刑務作業が義務付けられているものをいいます。
懲役刑には無期と有期が規定されていて、有期であれば原則1か月から20年の間で刑期が定められ、満期を迎えたときに釈放されます。無期懲役は文字通り期限の定めがない懲役ですが、必ず生涯にわたって身柄の拘束を受けるというわけではありません。
3、改正されるのはいつから?
拘禁刑の新設を含む改正刑法は、令和4年6月13日の参議院本会議で可決、成立し、令和4年6月17日に公布されました。
そして、拘禁刑の施行日は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において、政令で定める日とあり、具体的な施行日は、令和4年9月現在「未定」とされていますが、令和7年6月17日までのどこかで施行されることが予定されています。
4、被疑者になったとき弁護士に相談すべき理由
刑事事件の被疑者になってしまった場合には、できるだけ早く弁護士に相談をすることが大切です。
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(1)取り調べに対するアドバイスを受けられる
刑事事件の被疑者になってしまった場合には、状況次第では、警察から逮捕されてしまう可能性もあります。警察に逮捕されてしまうと、警察署の留置施設で身柄拘束を受けることになり、その間は、たとえ家族であっても面会をすることができません。
また、逮捕後引き続き身柄拘束をする必要性が認められる場合には、勾留によってさらに長期間身柄拘束を受けることになります。逮捕から勾留までは最長で23日間も身柄を拘束されてしまうため、それによる被疑者の不利益は非常に大きいものとなります。
しかも、逮捕・勾留中は、捜査機関による過酷な取り調べを受けることになります。そのため、不慣れな方ではどのように対応すればよいかわからず、捜査機関による誘導に乗って、不利な自白をしてしまうおそれもあります。一度してしまった不利な自白は、後日の裁判で撤回することが非常に難しくなりますので、適切な対応方法を知るためには弁護士のアドバイスが必要となります。
弁護士であれば、逮捕・勾留中であっても制限なく面会をすることが可能ですので、初めての身柄拘束であっても少しは不安が和らぐといえるでしょう。 -
(2)被害者との示談交渉を任せることができる
被害者のいる犯罪では、被害者と示談成立させることが非常に重要となってきます。犯罪被害者と示談が成立しているということは、被害を受けた被害者自身の損害が回復されており、処罰を望まない状態ですので、検察官が起訴・不起訴を判断する際や裁判官が量刑を考える際に被疑者・被告人にとって有利な情状となります。
もっとも、被害者と面識のないケースでは、被疑者本人が被害者に連絡をして示談交渉を行うこと自体困難です。また、面識があったとしても被疑者本人からの接触だと避けられてしまう可能性が高いでしょう。このような場合には、弁護士に示談交渉を任せることによって、被疑者本人が行うよりもスムーズに示談交渉をすすめることが期待できます。 -
(3)身柄の拘束を最小限に抑えるための弁護活動を行う
前述の通り、逮捕されてしまうと長期にわたる身柄の拘束を受ける可能性が高まります。そのうえで懲役刑となれば、日常生活への影響は多大なものとなることは間違いありません。
弁護士に対応を依頼することで、身柄拘束を最小限に抑えられるよう、以下のような弁護活動を行います。- 逮捕後であれば検察への送致を回避することを目指す
- 送致されても勾留の回避を目指す
- 起訴の回避を目指す
- 起訴後は保釈を目指す
- 裁判では重すぎる刑罰に処されないよう弁護する
5、まとめ
刑法改正によって、令和7年6月17日までの間に、拘禁刑という新たな刑罰の種類が設けられることになります。これまでの懲役刑や禁錮刑に比べて、刑務作業だけでなく教育指導の充実が図られることになりますが、受刑者の再犯防止が期待できる刑罰といえます。
とはいえ、重すぎる罪が科されてしまう事態や、前科がついてしまうことはできる限り避けたいところです。刑事事件の被疑者になってしまった場合には、早期の対応が必要になります。お早めにベリーベスト法律事務所 高崎オフィスまでご相談ください。適切な弁護活動を行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています