夫源病を理由に離婚できる? 離婚したい場合の対処方法を弁護士が解説

2020年09月09日
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夫源病を理由に離婚できる? 離婚したい場合の対処方法を弁護士が解説

平成31年2月7日、群馬県の「ぐんま男女共同参画センター」にて、「定年後の夫婦関係をよくするコツ」という講演が行われました。講師は、近年広く知れ渡った「夫源病(ふげんびょう)」名付け親である石蔵文信医師でした。今まで世間体や子どもの養育を理由に離婚できなかった人が熟年離婚などを切り出すようになっているといいます。この原因として、定年退職後の夫とずっと一緒にいたくないという理由が挙げられているのです。

では、夫源病を理由に離婚したいと考えたとき、裁判上などで認められるのでしょうか。そもそも夫源病とはどのようなものなのかをはじめ、離婚の手続きはどのように進めればいいのかなどを中心に、高崎オフィスの弁護士が解説します。

1、近年よく聞くようになった夫源病とは?

夫源病とは、一体どのような病気なのでしょうか。

  1. (1)夫源病の症状はさまざま

    夫源病は、医師の石蔵文信氏が名付けた症状の一種であり、正式な病名ではありません。また、人それぞれに出る症状が異なっているため、診断しにくいのが特徴になっています。

    一般的には、夫の言動を原因として、妻に何らかの心身の不調が現れる状態を指すようです。たとえば、夫が家にいると体調不良になる、夫の帰宅時間になると動悸(どうき)などが発生するなどの症状が代表例といわれています。

    もっとも、実際に検査をしてみたところ、何らかの疾患が発覚したというケースは少なくないでしょう。病名ではない以上、夫源病かどうかの判断は難しいとされている点も特徴のひとつになっているのです。

    検査をしても何の疾患も発覚せず、それでも不調が続いているものの、そもそも夫源病かどうかわからないという場合があるかもしれません。この場合、数日夫と距離を置いてみて体調がどうか確認してみるという方法が一般的とされています。

  2. (2)夫源病はさまざまな要因がある

    夫源病になりやすい原因として、主に夫が妻に対して暴言を吐くなどの精神的な暴力が挙げられます。いわゆるモラハラを受ける状況が長く続くと、たとえ直接的な暴力を受けていなくても、その被害を受ける者の多くが心身の不調を訴える傾向があります。

    しかし、元々の妻側の性格がストレスを感じやすいというケースもあるでしょう。この場合は、夫にだけ原因があるわけではないともいえます。また、実家が遠方で子育てをひとりでするしかないといった周囲に頼ることができない環境も原因のひとつとされているようです。

    夫源病は、さまざまな要因から発生する可能性がある症状といえるでしょう。

2、夫源病を理由に離婚は可能?

自分は明らかに夫源病になっているので、夫と離婚したいとお考えの場合、離婚を切り出し、離婚の際の条件面も含めて夫が了承さえすれば、離婚することができます。いわゆる協議離婚です。

しかし、夫が了承しない場合は、一方的な離婚の請求が認められる「法定離婚事由」があるかどうかで離婚できるかどうかが変わります。

  1. (1)法定離婚事由とは

    法定離婚事由とは、民法第770条第1項各号に規定されている裁判上で離婚が認められる理由を指します。

    以下5つの理由のいずれかに、あなたの状況が該当すれば、離婚することが認められます。

    • 配偶者の不貞行為(1号)
    • 配偶者からの悪意の遺棄(2号)
    • 配偶者の生死が3年以上の不明の場合(3号)
    • 配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがない(4号)
    • 婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(5号)
  2. (2)夫源病はどこに該当するか

    前述のとおり、夫源病と考えられる症状が出ていたとしても、相手側が承諾しなければ協議離婚することはできません。そこで、訴訟になった場合には、夫源病の症状、夫源病の症状が出るに至った原因等のさまざまな観点から、先述の法定離婚事由があるかどうかを確認し、それを証明する必要があります。

    たとえば「悪意の遺棄」(民法第770条第1項第2号)とは、法律上夫婦となった者双方が課される同居・協力・扶助義務を果たしていない場合、これを理由にした離婚が可能となります。具体的には、生活費を渡さないなどという経済的遺棄も含まれます。したがって、夫のこうした行動により夫源病にあたる症状が出ている場合は、「悪意の遺棄」に該当する場合があります。

    「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法第770条第1項第5号)に該当するか否かは、夫婦間のさまざまな事情を踏まえて判断されることになります。
    一般的には、別居期間が長ければ長いほど「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断される傾向があります。そのため、夫からの暴力、モラハラ等により、夫源病の症状等が出てしまい、別居をしている場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断される場合があります。

    夫源病の具体的な原因について、この規定に適用される場合、離婚が認められる可能性が高くなります。他方、夫をよく思っていない、気に入らないという明確にできない理由では、法定離婚事由には該当する可能性が低くなります。

    こうしたことから、夫源病を原因として離婚しようと考えていて、相手が合意してくれない場合は、弁護士に相談してみることをおすすめします。弁護士に相談することによって、法定離婚事由に該当しそうな事項について証拠を集めるなど、事前の対策を練ることができるでしょう。

3、相手が離婚に応じてくれない場合の手続き

夫源病を理由として離婚を求めても夫が離婚に応じてくれないとき、とるべき手続きは以下のとおりです。

  1. (1)離婚調停

    離婚調停は、離婚自体の合意、親権、養育費、慰謝料、財産分与等の離婚の条件について何らかの争いがあり離婚が成立しない場合に利用することができる手続きです。

    相手側が居住する地域を管轄する家庭裁判所で行われる手続きで、裁判所から選任された第三者の調停委員が夫婦間に入り、離婚についての話し合いを進めていくことになります。その際、具体的な状況を把握し、適切な意見を冷静に伝えることで、離婚できる可能性を高めることができます。

    なお、離婚調停を申し立てるにあたっては、別居をすることをおすすめします。
    というのも、別居することにより、婚姻関係の破綻を客観的に示すことができます。また、別居することにより、互いに冷静に離婚について考えることができるようになります。

    なお、別居に際していくつかの注意点があります。まず、別居するにあたり、住む家を確保しなければなりません。実家に戻れるのならば、戻るという選択肢もあるでしょう。その他の場合は、自分の所有する家がない限り自分で家を借りる必要があります。家を借りる場合、敷金などの契約に伴う諸費用や引っ越しに必要な費用もかかります。このとき、相手方配偶者が必ずしも引っ越し費用を負担してくれるわけではありません。そのため、こうした資金を確保していくことから始める必要があります。

    さらに、別居時に働いていない場合は当面の生活費をどうするのか考える必要があります。資産がなく仕事もしていない場合は、仕事を探すところから始める必要があります。

    そして、離婚にあたり、相手方が承諾していないのですから、法定離婚事由に該当する証拠を集めておく必要があります。こうした証拠集めについても、あらかじめ弁護士に相談しておくと自分に有利な証拠を集めやすくなります。

    他方、相手の財産や収入状況の把握もしておきましょう。別居してしまうと、相手がどのくらい財産があるか把握できなくなってしまいます。そうなると、離婚の際の財産分与請求を行う際の根拠を示すことができます。また、収入についてきちんと把握しておけば、別居中の生活費として婚姻費用分担請求を行う際の根拠を示すことができます。

  2. (2)訴訟

    協議離婚、調停離婚もできない場合には、訴訟手続を利用して離婚の手続きを進めていくことになります。訴訟となった場合は、お互いに証拠を出し合い、離婚するかどうかを裁判官に判断してもらう手続きです。この判断は、前述のとおり、法定離婚事由に該当するかどうかで判断されていきます。

    このとき、集めておいた自分に有利な証拠を提出することができるのです。もっとも、裁判手続きは個人が行うには主張立証の方法など難しい場合が多いため、弁護士に依頼して勝訴をつかみ取りましょう。

    なお、日本においては、原則として、離婚訴訟の前に離婚調停を申し立てる必要があります。

4、離婚の相談を弁護士にするメリット

離婚についてあらかじめ弁護士に相談しておくメリットは、効率的に証拠を集めることができる点です。裁判などの手続きに詳しい弁護士の場合、どのような証拠があれば離婚が認められやすいか経験上わかっている場合が多くなっています。

特に、夫源病は、法定離婚事由には直接該当する事項がないケースや、証拠となりうるものを集められない・わからないというケースは少なくありません。弁護士に相談することで、法的に離婚が可能かどうかや、離婚に向けた進め方について、アドバイスを受けることができるでしょう。

また、依頼を受けた弁護士は、あなたの代理人として離婚の話し合いなどを進めることができます。距離的な問題や、モラハラなどの結果、直接離婚を伝えるのはこわい、冷静な話し合いは難しいというケースでは、非常に心強い味方になるはずです。別居中の婚姻費用請求から財産分与、養育費、慰謝料などを適切に受け取れるよう、交渉を進めることができます。

5、まとめ

近年、夫源病に悩まされている方は少なくないようです。ご自身の症状が夫源病にあたるのではないかと考え、離婚をしたいという方もいるでしょう。しかし、法定離婚事由には直接該当しないことが多いため、離婚が認められるためには対策が必要となります。

もし離婚をお考えであれば、まずは弁護士に相談することをおすすめします。不利な条件で離婚してしまう事態を回避できるよう、ベリーベスト高崎オフィスの弁護士が力を尽くします。

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