フェアユースとは簡単にいうとどういうこと? 日本でも適用される?
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群馬県内における事業所数は9万2009(平成28年経済センサス―活動調査(確報)結果の概要より)です。
事業活動をしていると、ネット上や印刷物の企画製作を行うことは珍しくありません。そこで重要となる著作権の取り扱いについては、気にされる事業者とそうではない事業者で大きな温度差があるようです。著作権侵害をめぐる紛争においてフェアユースは、当該著作物の利用方法が著作権侵害にならないという反論を行う際にあらわれる重要な概念です。
もし、著作権侵害をした相手がフェアユースを主張したら、どのように対応すべきなのでしょうか。高崎オフィスの弁護士が解説します。
1、フェアユースは米国の著作権法などが認める考え方
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(1)フェアユースとは?
フェアユースとは、日本では、公正利用や公正使用などと訳されている言葉です。もともとは米国の訴訟にて判例法理として採用され、発展したルールであり、現在は米国などの著作権法では明文で定められています。
一方で、わが国の著作権法では同様の規定は明文では定められておりません。そのため、あまり耳慣れない言葉かもしれません。
フェアユースという言葉は、相手方の著作権を違法に侵害しているものではないことを主張する場面で用いられるケースが多いでしょう。著作権の侵害の主張をされた側がフェアユース(公正利用・公正使用)であることを理由に当該著作権侵害について反論を行う際に用いられるのです。 -
(2)裁判例
フェアユースが、日本国内で具体的に問題となった場面を実際の事例をもとにご紹介します。
東京地方裁判所平成7年12月18日判決(平成6年(ワ)第9532号)です。被告は、昭和61年から平成5年までの間で休刊や廃刊となった他社の雑誌の最終号の挨拶文や表紙、イラスト等を複数集め、これをまとめた書籍を出版しました。このときに被告は当該書籍で扱う最終号の挨拶文などを掲載してもよいか、他の出版元へ許諾を取りましたが、一部の会社は掲載を拒絶し承認しなかったにもかかわらず、被告によって同意なく掲載されて出版されたのでした。
そこで、掲載を拒絶した各社は原告となり、被告に対して著作権の侵害に基づく発行・販売の差止めおよび損害賠償を求めました。被告は、このような原告の著作権侵害との主張に対して、被告の利用は公正利用であり「フェアユースの法理」を適用があるとして争ったのです。
具体的には、被告の書籍中に本件記事を使用した目的は、「雑誌の新陳代謝」という近年の社会現象を報道・批評し、右現象に関する資料を収集・保存することにあり、被告の書籍の基本的性格は、報道、批評、学術を目的とする資料集であり、フェアユースの法理を適用すべきあると主張しました。
しかし、平成7年12月18日の東京地裁は、その判決で、概要、著作権法は著作権を制限する場合やその要件を具体的かつ詳細に一定の事由に限定して定めており、フェアユースの法理に相当する一般条項を定めなかったのであるから、著作権が制限される場合は著作権法に定める場合だけであるといった理由から、被告のフェアユースの法理が適用できるという主張を退けました。
なお、後述しますが、日本の著作権法では著作権の制限を受ける場合が具体的に定められています。これらの規定は、著作物の公正利用の観点からも制限を受ける場合を定めたものではありますが、米国法のように一般的なフェアユースの規定は定められていないのです。
2、米国のフェアユース判断基準
それでは、米国のフェアユースはどのように判断されるのでしょうか。
米国著作権法では、その明文上、批評や解説、ニュース報道、教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む教授する行為、研究または調査等を目的とする著作権のある著作物のフェアユースは、著作権の侵害とならないという一般的な定めを置いています。
そして、そのフェアユースに該当する否かの判断基準としては4つの判断基準が定められています。
- ① 使用の目的および性格(使用が商業性を有するか、または非営利的教育目的かの別を含む)
- ② 著作権のある著作物の性質
- ③ 著作権のある著作物全体との対比における使用された部分の量および実質性
- ④ 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響
先に挙げたフェアユースに関する日本の裁判例でも、実際にこの4つの基準にあてはめる形でフェアユースの法理が適用されることを主張しています。
① 使用の目的および性質(使用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的かの別を含む)
使用目的が商業的であれば、その使用は本来の著作権者に独占的になされるものであるから、フェアユースの主張は通りにくくなります。
もちろん事例に挙げた事件でも、報道や批評、学術目的であることが強調されました。
② 著作権のある著作物の性質
フィクション作品よりもノンフィクション作品、事実に関する作品の方がフェアユースの主張が認められやすい著作物の性質ということになります。それは、ノンフィクション作品、事実に関する作品の方が著作物の利用の必要性が高いことに由来します。
実際に、事例の事件でも事実に関する作品であることを主張しています。
③ 著作権のある著作物全体との対比における使用された部分の量および実質性
この基準は著作物の使用が、多量や著作物の重要な箇所であれば、侵害が大きいためフェアユースの主張は通りにくく、逆に著作物の使用の程度が少ない場合や非本質的な部分であればフェアユースの主張が認められやすいことになります。
事例の事件では、使用した箇所は雑誌のあいさつ文・告知文にすぎないことから使用の程度が少ないことを主張しています。
④ 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響
これは、当該著作物の潜在市場または価値に対して、どれだけの影響を及ぼすことになるかによって、判定されます。著作物の市場または価値に実際に損害を及ぼす必要はないのですが、不利益となるような場合にはフェアユースが認められにくいものです。
事例の事件では、雑誌の最終号からの使用であることから、すでに市場は消滅しているため、著作物の潜在的市場や価値に対する使用の影響は一切ないことを主張しています。
3、日本の著作権法で定められた「例外」とは?
著作物を利用するためには、著作権者からの許諾を得ることが原則です。
しかし、フェアユースの法理のように一般的な包括規定はありませんが、日本の著作権法にも、著作権を制限する明文規定があります。一定の場合には、著作権者の許諾がなくとも著作物を利用できる場合を著作権法は認めているのです(第30条から47条の10)。
これらの規定は著作権の制限規定といわれています。著作権は情報を独占的に利用できる非常に強力な権利ではありますが、あくまで文化発展のため設定されたものであり、社会一般との調和的な発展のため、制限規定が設けられたのです。
具体的には、以下の規定が代表的です。
- 私的使用のための複製(著作権法第30条、以下では「法」と略します。)
- 付随対象著作物の利用(法第30条の2)
- 検討の過程における利用(法第30条の3)
- 著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用(法第30条の4)
- 図書館等における複製(法第31条)
- 引用(法第32条)
- 教科用図書等への掲載等(法第33条、33条の2 、33条の3)
- 学校教育番組の放送等(法第34条)
- 学校その他の教育機関における複製等(法第35条)
- 試験問題としての複製等(法第36条)
- 視聴覚障害者等のための複製等(法第37条、37条の2)
- 営利を目的としない上演等(法第38条)
以上のとおり、一定数の例外規定があることがわかりますが、米国の著作権法のようにある種のバスケット条項のような一般的包括的な制限規定はありません。すべて詳細な要件が設けられていることが特徴といえます。
著作権法の改正の際には、米国法などにならい、フェアユースの規定を設けることも議論されているようですが、いまだ制定には至っていません。なお、「私的使用のための複製」や「引用」などは実際に訴訟でも争点となることは多く、先の裁判例でも被告は「引用」の主張を行い、著作権侵害を争っていました。
4、フェアユースを理由に著作権を侵害されたら
日本では著作権法上の明文規定はなく、裁判例などではこれまで認められたことはありません。したがって、仮に相手方がフェアユースを理由に著作権を侵害していないことを主張しても現行法および裁判例上は、フェアユースの抗弁は認められないといってもよいでしょう。
もっとも、注意が必要な点もあります。今後、裁判所がフェアユースの法理を採用することが絶対にないものではありません。
また、フェアユースの法理は、包括的一般的な概念です。したがって、相手方の主張の詳細を聴取すると、実は先述した著作権の制限(法第30条から第47条の6)に該当するものであった場合には相手方の主張が認められてしまう可能性があります。
さらに、フェアユースが認められないとしても、著作権者による著作権の侵害に基づく請求が権利の濫用と評価されるものでないかは、検討する必要があるでしょう。
5、まとめ
フェアユースをめぐってはさまざまな検討点があります。米国では制定法にあり、日本の実際の裁判においても主張される考え方であり、相手方からフェアユースを主張されてしまう場合も珍しいものではなくなるかもしれないといえます。
もちろん、こちらから主張したい場面もあるでしょう。著作権侵害を受けた場合は、ぜひともお気軽に知的財産権に関する取り扱いも経験豊富なベリーベスト法律事務所 高崎オフィスまでご相談ください。
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