不当解雇されたら行うべき撤回の請求や損害賠償請求の方法と時効

2024年02月26日
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不当解雇されたら行うべき撤回の請求や損害賠償請求の方法と時効

高崎市を管轄する群馬労働局のホームページでは、「解雇・退職に関する事項のあらまし」というページを用意し、会社側が安易に労働者を解雇しないように呼び掛けています。

しかし、合理的な理由もなく、会社に不当解雇されてしまったという方は依然として多いようです。なかには、不当解雇を訴えようとしても時効が成立してしまったことにより、泣き寝入りを余儀なくされてしまうケースを見聞きします。

そこで本コラムでは、解雇を言い渡されたとき確認すべきことから、実際に不当解雇だったとき会社に対して請求できること、時効が成立する前に取るべき対策について、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説します。

1、その解雇は不当解雇?

労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない解雇は会社による解雇権の濫用、つまり不当解雇として無効になると規定しています

労働関連法令や過去の判例などから、もしあなたが受けた解雇が以下のようなものである場合は、会社による不当解雇を疑ったほうがよいかもしれません。いくら強く迫られたとしても、会社から提示された解雇や退職を了承する書類などへサインはせず、弁護士に相談してください。

  • 社員を解雇する客観的な必要性が生じていない。
  • 業績不振を解雇の理由としている場合、会社が社員の解雇を防ぐための手段を尽くしていない。
  • 整理解雇(いわゆるリストラ)の一環による解雇だが、その対象となる社員の勤続年数やスキル、能力などの基準が不明確であり、かつ運用に合理性がない。
  • 解雇する理由や退職条件の説明を、会社が十分に行っていない。
  • 会社が解雇の理由としている病気やケガが、業務に耐えられない程度のものではない。
  • 能力やスキルの低さを解雇の理由としているが、解雇に至るまで会社による社員の能力やスキル向上のための指導がない。また、会社のいう能力やスキルの低さが、必ずしも業務を遂行できない程度のものではない。

2、不当解雇された労働者ができること

  1. (1)解雇の撤回の請求

    不当解雇については、会社に対して、解雇の撤回と社員としての立場を保全するように交渉することからはじめます。

    しかし、会社はあくまで当該解雇は有効であると主張してくるでしょう。このような場合は不当解雇であることの証拠を集めた上で当事者どうしの交渉、あるいは裁判で解雇の撤回をめぐって争うことになります。

    なお、解雇が撤回されたとしても、実際に職場復帰する事例はあまり多くありません。後述する慰謝料や未払賃金の支払いなどにより解決する事例のほうが多いのです。
    また、退職届などにサインをしてしまうと、退職に同意したとみなされるため、そもそも解雇ではないと判断され、不当解雇を争えなくなってしまう点に注意が必要です

  2. (2)慰謝料や未払賃金などの請求

    会社による不当解雇は、不法行為となる可能性があります。このような不法行為によって精神的苦痛を受けたときは、会社に対して慰謝料を請求できる可能性があります(民法第710条)。

    不当解雇は無効となりますので、社員は、退職届を出していなければその解雇が無効と判断された期間について、賃金の支払いを会社に請求することができます。

    また、退職金制度がある会社に勤務しており、かつ退職金が支払われなかった理由が不当解雇となった理由の場合は、それについても未払退職金として請求することができます。

    このほか、在職中に未払残業代があった場合においても、それを請求することができます。

3、不当解雇を争いたいとき知っておきたい時効のこと

会社から不当解雇されたら、いつまでもその事実を放置しておくべきではありません。なぜなら、民法や労働基準法では「時効」という制度が設けられています。そして、時効期間を経過してしまうと不当解雇であっても泣き寝入りになることがあるのです。

  1. (1)時効とは?

    時効とは、ある事実状態が一定期間続いた場合に、これに法律上の効果を与える制度のことです。

    法律で時効の制度が設けられている背景は、主に以下のとおりです。

    • 長時間継続して存在した事実により、発生した社会秩序を維持すること
    • 時間の経過とともに困難になる証拠保全を救済すること
    • 権利の上に眠る者は、法の保護を受けるに値しないと考えられること
    • 長く権利を行使しない者には、その権利を放棄する意思があると推定されること


    時効には、「取得時効」と「消滅時効」の2種類があります。このうち、不当解雇において重要となるものは消滅時効です。

    消滅時効とは、一定期間権利を行使しないという状態が続く場合に、権利の消滅という効果を認めるというものです。つまり、消滅時効が成立することによって不当解雇されたことに対する慰謝料、本来受け取ることができたはずの賃金、未払残業代、退職金など会社に請求する権利が消滅してしまうのです

  2. (2)時効期間は?

    会社と不当解雇の無効を争うことについて、時効は設けられていません。

    ただし、不当解雇をめぐって会社に以下の支払いを求めるときは、時効に注意が必要です。

    未払賃金(残業代) 3年(労働基準法第115条、同附則第145条第3項)支給日が令和2年3月31日以前の未払賃金については2年(労働基準法改正附則第2条)
    未払退職金 5年(労働基準法第115条、同附則第145条第3項)
    不当解雇に関する慰謝料 不当解雇されたことを知った日から3年(民法第724条)

4、どのようなものが証拠になる?

会社に不当解雇の無効や慰謝料の支払い、未払賃金などを請求する訴えでは、企業の解雇の違法性をあなた自身が立証しなければなりません。そして、不当解雇の事実を立証するためには、誰がみてもこれは会社による不当解雇であるとわかる客観的な「証拠」が必要です。

以下では、会社の不当解雇を訴えるときに有力な証拠となる可能性があるものをご紹介します。

  1. (1)解雇理由証明書

    「解雇理由証明書」とは、会社による解雇が理由で社員が退職するときに、解雇予告がなされたときから当該社員の請求に応じて交付することが会社に義務付けられている書面です(労働基準法第22条第1項および第2項)。

    解雇理由証明書に記載されている事項は、基本的に以下のとおりです。

    • 会社に雇用されていた期間
    • 会社において担当していた業務の種類
    • 当該社員の社内における地位
    • 賃金
    • 退職の理由(退職の理由が解雇の場合、解雇に至った理由)


    ただし、労働基準法第22条第3項の規定により、解雇される社員が請求しない事実は記載してはならないとされています。

  2. (2)在職中の勤務履歴に関する資料

    解雇の理由が勤務成績不良であり、あなた自身にそのような覚えがない場合、在職中の勤務記録が会社からの言いがかりを覆す証拠になることが期待できます。

    たとえば、給与や賞与の明細書などは、あなたが解雇に相当するような勤務成績不良ではないことを証明する証拠となり得ます。

    また、タイムカードやパソコンログ履歴などの勤怠記録は、解雇に相当するような長期の無断欠勤があなたになかったことを証明する証拠となり得ます。

  3. (3)解雇を通告されたときの記録

    会社から解雇を通知されたときのやり取りに関する記録も、有力な証拠となり得ます。

    このとき、証拠としては書面、Eメールまたは録音であることが望ましいといえますもし、それらのようなものが残っていない場合は、あなた自身が作成した日記などの記録が証拠として認められることもあります

    したがって、解雇を通告されたときの記憶が薄れないうちに、しっかりと記録を付けておくとよいでしょう。

5、不当解雇だと思ったら弁護士に相談すべき理由とは?

不当解雇を疑うときは、まず弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士はあなたが受けた解雇が不当解雇であるか否かを見極めるだけではなく、不当解雇であると判断される場合はその救済のためにさまざまなサポートを行います。

  1. (1)個人で会社と争うべきではない

    あなたが受けた不当解雇をめぐり会社と争うことは、個人で組織と争うことを意味します。相手が組織である以上、交渉すべき内容を誤るケースや決定的に不利な立場になってしまう事態になりかねません多勢に無勢な状況で、会社と争うべきではないのです

    弁護士は、法的な知見と労働問題の解決に関する経験を活かしながら、会社に対して不当解雇を根拠に、その無効や慰謝料の支払い、未払い賃金の支払いなどを交渉します。

  2. (2)裁判における手続きもサポート

    不当解雇をめぐり会社と裁判になった場合でも、弁護士はあなたの代理人として裁判上の手続きを行います

    しかし、会社と争おうとしても先述したような証拠を集めることができない、あるいは不当解雇の事実を隠したい会社側によって隠ぺいなどの作為がなされることも考えられます。これを放置しておいたら、証拠がなく訴訟を提起することができないまま、時効が成立してしまうことがあるでしょう。

    このようなとき、弁護士は裁判所に対して「証拠保全」の申し立てを行います。証拠保全とは、あらかじめ証拠調べをしておかないと、証拠を使用することが困難となる事情があると認められる場合に、本来の証拠調べに先立ち裁判所が証拠調べを行う手続きです。

    証拠保全を裁判所に申し立てが認められると、裁判所は会社に対して先述した証拠の開示・提出を求めます。なお、証拠保全は必ずしも法的に強制力のあるものではありません。しかし、証拠保全による証拠の開示・提出は裁判所が求めることですから、会社がそれに応じる可能性は十分にあるでしょう。

6、まとめ

会社に解雇を迫られたとしても「不当解雇ではないか」と感じられたら、すぐにサインなどは行わないようにしてください。一度、解雇や退職を了承する書類にサインしてしまうと、真に不当解雇であったとしても戦えなくなってしまいます。何より、不当解雇であれば、あなたの労働者としての権利を守るため、時効が完成する前に毅然と対応すべきです。

あなたが会社と戦おうと決意されたとき、心強い味方となるのが弁護士です。あなたのパートナーとして不当解雇の無効と正当な利益の実現に向けてサポートします。

ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスでは、不当解雇に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご連絡ください。あなたのために、ベストを尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています