会社から給与明細がもらえない! 会社の違法性と対処法について

2024年03月05日
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会社から給与明細がもらえない! 会社の違法性と対処法について

令和3年度に群馬県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働関係の相談は2万397件でした。その内、給与など労働条件の引き下げに関する相談は、590件であったと公表されています。

所得税法に基づき、会社は従業員に対して給与明細(給与支払明細書)を交付する義務がありますが、もし会社が給与明細の支払いを拒否した場合、賃金の計算などに関して、何かごまかしがある可能性があります。

今回は、会社から給与明細がもらえない場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が解説します。

1、給与明細を交付しないことは違法

従業員による残業代請求を封じたいためなのか、給与明細の交付を求められても拒否する会社があるようです。

しかし、給与明細を従業員に交付しないことは、所得税法違反に当たります。

  1. (1)会社には給与明細・源泉徴収票の交付義務あり

    日本国内において給与を支払う会社は、給与を受け取る者(従業員など)に対して、以下の事項を記載した支払明細書を交付しなければなりません(所得税法第231条第1項、所得税法施行規則第100条第1項)。

    <給与明細(給与支払明細書)の記載事項>
    1. ① 給与等の金額
    2. ② 給与等から源泉徴収した所得税の額(源泉所得税額)
    3. ③ 年末調整によって発生した過納額の還付額


    また会社は、年末まで在職している従業員に対しては、1月31日までに前年支払った給与について、以下の事項を記載した源泉徴収票を交付しなければなりません(所得税法第226条第1項、所得税法施行規則第93条第1項)。

    年の途中で退職した従業員に対しては、退職後1か月以内にその年支払った給与について、源泉徴収票を交付する必要があります。

    <源泉徴収票の記載事項>
    1. ① 従業員の氏名、住所または居所
    2. ② 会社の名称、本店または主たる事務所の所在地、電話番号
    3. ③ その年中に支払の確定した給与等の種類およびその合計額
    4. ④ 給与所得控除後の給与等の金額
    5. ⑤ 給与等から源泉徴収した所得税の額(源泉所得税額)
    6. ⑥ 社会保険料控除額、小規模企業共済等掛金控除額
    7. ⑦ 控除対象配偶者等の有無など
    8. ⑧ 配偶者控除額、配偶者特別控除額、特別控除対象配偶者の合計所得金額またはその見積額
    9. ⑨ 生命保険料控除額、地震保険料控除額など
    10. ⑩ 従業員が特別障碍者、その他の障害者、寡婦、ひとり親、勤労学生に該当する場合は、その旨
    11. ⑪ 住宅ローン特別控除の額
    12. ⑫ その他参考となるべき事項


    したがって、会社が従業員に対して給与明細や源泉徴収票を交付しない場合、それは所得税法違反です。

    なお、給与明細や源泉徴収票の不交付は刑事罰の対象であり、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処されます(所得税法第242条第6号、第7号)。

  2. (2)雇用形態にかかわらず、すべての従業員が給与明細等の交付対象

    給与明細や源泉徴収票の交付義務は、正社員・パート・アルバイトなどの雇用形態を問わず、すべての従業員について適用されます。

    よって、仮に会社が「アルバイトには給与明細を交付しない」などと主張しているならば、所得税法のルールとは異なる不適切な取り扱いです。

2、給与明細をもらわないとリスク大|必ず会社に交付請求を

従業員が会社から給与明細を受け取らずにいると、会社から賃金の金額をごまかされるなどの不利益を被るおそれがあります。

たとえば会社が勤務記録を改ざんして、給与を少なく支払っているかもしれません。そうした場合でも、給与明細が交付されていれば、従業員は給与の金額を容易に確認できます。

しかし、給与明細が交付されていなければ、どの程度の金額の給与が支払われているかすぐにはわかりません。その結果、仮に未払い賃金が発生していたとしても、従業員が会社に対する請求を思いとどまってしまうケースがあります。

正当な労働の対価を得るためにも、会社が給与明細の交付を拒否している場合では、後述する手段を通じて必ず交付を請求しましょう

3、給与明細がもらえない場合の対処法

会社から給与明細を交付してもらえない場合には、以下の対応を取ることが考えられます。

  1. (1)会社の人事担当者に交付を請求する

    給与明細の交付に関する事務は、会社の人事担当者が取り扱うのが一般的です。単に忘れているだけかもしれないので、まずは人事担当者に給与明細の交付を請求してみましょう。

    もし断られた場合には、所得税法上、給与明細の交付が義務付けられていることを説明して、法律に従って交付するように求めましょう。

    人事担当者が良識ある人であれば、持ち帰って検討した後、給与明細の交付に応じるかもしれません

  2. (2)税務署に「給与支払明細書不交付の届出」を行う

    会社が給与明細の交付を拒否している場合は、税務署に「給与支払明細書不交付の届出」を行うことも考えられます。
    参考:「給与支払明細書不交付の届出手続」(国税庁)

    給与明細の不交付は所得税法違反に当たるところ、所得税法は国税庁(税務署)が執行する法律です。税務署は、給与支払明細書不交付の届出を受けた場合、会社に対して連絡したうえで、給与明細を交付するように指導を行います。

    会社としては、税務署の指導を無視していると、行政処分や刑事罰の対象になりかねないので、給与明細の交付に応じる可能性が高いでしょう。

  3. (3)労働基準監督署に相談する

    給与明細が交付されない背景として、未払い賃金の発生を隠したい会社の意図があると思われる場合は、労働基準監督署に相談することも選択肢となります。

    労働基準監督署は、会社による労働基準法違反などを取り締まる監督官庁です。賃金の未払いは労働基準法違反に当たるため、労働基準監督署による調査・取り締まりの対象となります。

    労働基準監督署は、会社による労働基準法違反の有無を確認するため、事業場への臨検調査などを行います。その結果、労働基準法違反が発見されれば、勧告や刑事処分などを通じた是正を図ります。

    労働基準監督署の臨検調査が入れば、給与明細を交付しない、賃金をきちんと支払わないといった会社のずさんな対応は改善される見込みが出てくるでしょう。

  4. (4)弁護士に相談する

    会社との間で、給与明細の交付や未払い賃金の支払いなどに関する交渉を直接行いたい場合は、弁護士へ相談することをおすすめします。

    弁護士は従業員の代理人として、従業員の権利を守るために対応します。給与明細の交付や未払い賃金の支払いについても、所得税法・労働基準法などの法令に基づく主張を行うことで、会社が従業員側の請求に応じる可能性が高まります。

4、労働トラブルについて弁護士に相談するメリット

従業員が労働関係のトラブルに巻き込まれた場合は、弁護士に相談することがもっとも迅速かつ適正な解決につながりやすいです。弁護士への相談は、以下のメリットがあります。

  1. (1)法令に従った対応を求めることができる

    法令の根拠に沿った主張を展開できることは、弁護士に相談する最大のメリットです。

    給与明細を交付する、労働時間に応じた賃金を正しく支払うなど、当たり前の対応ができていない会社も残念ながら存在します。弁護士は、法的な根拠に基づいて会社による対応の不備を指摘し、法令に従った対応を求めます。

  2. (2)会社が和解に応じやすい

    弁護士が交渉すれば、会社としても従業員側の主張を門前払いにはしづらいでしょう。交渉が決裂すれば、労働審判や訴訟などの法的手続きを取られる可能性が高いからです。

    弁護士を通じて交渉を行うことで、会社の譲歩を引き出し、早期に労働トラブルを解決できる可能性が高まります

  3. (3)労働審判や訴訟に発展しても安心

    会社との交渉が決裂した場合、労働審判や訴訟などの法的手続きを通じて争うことになります。

    これらの法的手続きは専門性が高く、一般の方が個人で対応するのは困難です。弁護士に依頼することで、労働審判や訴訟に発展した場合でも、スムーズに対応できるでしょう。会社に対して毅然と主張をぶつけることができる点も、弁護士に依頼することの大きなメリットです。

5、まとめ

給与明細の交付は、所得税法に基づく会社の義務です。もし会社が給与明細の交付を拒否している場合は、弁護士などにご相談のうえで、速やかな交付を求めましょう。

給与明細の内容を確認すると、未払い賃金の存在が判明するケースもあります。未払い賃金の請求には、発生から3年間の消滅時効が設定されているため、早めに準備を整えることをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所は、労働関連のトラブルに関する労働者からのご相談を随時受け付けております。未払い賃金(残業代)の請求、不当解雇、ハラスメントなど、お悩みの内容に応じて弁護士が解決策をアドバイスいたします。

会社から給与明細をもらえない、賃金がきちんと支払われないなどのお悩みをお抱えの方は、ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています