父の愛人とその子どもに相続権はある? 円満に相続をすすめるコツ
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平成30年度に群馬県の前橋家庭裁判所が扱った遺産分割事件の総数は235件ありました。当事者同士の話し合いで解決できず裁判で争われるケースがあるのが現状です。
テレビドラマなどで夫や父親に愛人や子どもがいて、亡くなったあとに遺産相続でもめるというような場面を見ることがあります。これは決してドラマの中だけのことではありません。
自分の夫や父親に愛人がいて、長年苦しめられた末に亡くなってしまった場合、遺産相続で愛人やその子どもに相続をさせるなんてもってのほかと考える人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、弁護士が、愛人の遺産相続について解説します。
1、愛人に相続権は発生せず
もっとも気になるのは、「愛人に相続権があるかないか」についてではないでしょうか。
相続については民法によって財産を受け継ぐ法定相続人が定められています。それによると、法定相続人になれるのは被相続人の配偶者と、被相続人の子どもや親、兄弟姉妹といった血族関係にある人とされているので、被相続人と婚姻関係のない愛人には原則として相続権が発生しません。
愛人と混同されやすい「内縁の妻」という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。どちらも「婚姻関係を結んでいない男女の関係」という共通点はありますが、社会的な立場には大きな差が出てきます。
愛人と内縁の妻との社会的な立場の違いを見てみましょう。
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(1)愛人とは
一般的には「相手が結婚している(配偶者がいる)ことを認識しており、そのうえで交際をしている関係」を指します。一般的には、「不倫」や「浮気」と言い換えることもできますが、法律上では「不貞」と呼ばれることが一般的です。
現在の日本では「一夫一婦制」を導入しているので、不倫関係の相手には法律での保護はありません。婚姻生活を脅かす不法行為をする者として、損害賠償請求の対象となることもあります。 -
(2)内縁の妻とは
互いに既婚者ではないものの入籍は行わず、それでも長年一緒に暮らしていれば、事実上夫婦関係にあると考えられるため、「事実婚関係」とみなされます。一般的に「内縁の妻」とは、事実婚状態における際の女性側を指す言葉です。
法律上においても「婚姻に準ずる関係」として、慰謝料の請求権などさまざまな保護が受けられるようになっています。
このように社会的な立場には大きな差はありますが、愛人も内縁の妻も婚姻届を提出して配偶者として認められているわけではありません。したがって、どちらのケースであっても「原則的には相続権がない」ものとして扱われることになります。
2、遺言があった場合は愛人も相続できる
愛人が遺産を相続できる場合もあります。夫や父親といった「被相続人」が、生前に作成した遺言書で「愛人に財産を譲る」などと記載をしていた場合は、本来は相続権のないはずの愛人が相続人として認められます。遺言書の内容は法定相続よりも優先されるというルールがあるためです。
ただし、遺言書に不備がある場合や、法定相続人の遺留分について侵害しているなど、内容によっては愛人が実際に遺言通りに相続できるわけではありません。
3、愛人との間の子ども(非嫡出子)に相続権はある?
愛人との間に子ども(非嫡出子)がいた場合、その子どもに対して相続権があるのかは、「子どもを夫や父親が認知しているか」どうかで変わります。
非嫡出子を認知していた場合は、法定相続人として認められ、相続権が発生します。遺産分割協議をする場合も「認知された非嫡出子の合意」がなければ協議を進められなくなります。
一方で非嫡出子が認知されていない場合、血がつながっていても法定相続人とは認められません。
相続を協議する段階で、非嫡出子の存在が判明した場合、認知されているかどうかを確認することが重要です。非嫡出子の戸籍で確認できます。戸籍上の「父」に夫や父親の名前があればその非嫡出子は認知されていることになり、法律上の親子関係が認められますが、「父」の欄が空欄であれば認知していないことになります。
しかし遺言書で非嫡出子を認知するという「遺言認知」もあり、遺言執行者によってこれが行われれば非嫡出子を認知することになり、法定相続人として相続権も発生します。
また以前は、非嫡出子が認知されていてもその相続分は嫡出子の半分と決められていましたが、平成25年12月に民法の改正が行われ、現在は嫡出子と同等の相続分になると定められています。
4、父の遺言書に「愛人へ全財産を相続する」と書かれていた! 従うべき?
ここからは遺言書に「愛人へ全財産を相続する」という記載があった場合、その遺言に従わなければならないのかについて解説します。
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(1)「遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)」をすれば全財産ではなくなる
法定相続人より遺言書の内容が優先されるとはいえ、法定相続人には「遺留分」と呼ばれる、遺言でも侵されることのない最低限度の遺産が確保されていて、「遺留分侵害額請求」をすることでこの遺留分を受け取ることができます。
なぜこのような権利があるかというと、相続制度には「近親者の生活を維持させるという目的」もあるとされ、遺言にあるからといって相続分をすべて愛人が受け継ぐと残された家族の生活が立ち行かなくなることも考えられるからです。そこで、法定相続分より多くの遺産を相続する人物に対して、遺留分に当たる金額を請求できる「遺留分侵害額請求(以前の名称は「遺留分減殺請求」でした)」という制度が設けられたとされています。
遺留分侵害額請求できる人間は限られていて、被相続人の配偶者や子ども(および、その代襲相続人)、父母・祖父母までとされています。兄弟姉妹には遺留分侵害額請求をする権利は認められていないので注意が必要です。
したがって、被相続人の妻や子どもたちが「遺留分侵害額請求」をすれば、愛人が受け取るのは全財産ではなく、遺産の「一部」になります。 -
(2)遺言書が無効と訴えることができる
遺言書の内容によっては、遺言書自体が無効になる場合があります。
●遺言書が正しい形式で作成されていない
公証人が作成した「公正証書」でない限り、遺言書は自筆で書いた「自筆証書遺言」でなければなりません。印鑑が押されていない等の場合には遺言書が無効になります。
●内容が愛人との関係を維持するために書かれたものである
愛人関係を維持するため、「死ぬまで愛人でいてくれたら死後遺産をあげる」など、愛人に財産を遺贈するための遺言書を残していたら、どうなるのでしょうか。本件については、民法第90条で規定される公序良俗に反するものとみなされて、遺言書は無効とした判決が既に存在します(最高裁一小法廷昭和61年11月20日)。
●遺言能力がない
遺言を書いた時点で遺言能力がない場合には、遺言が無効となる場合があります。遺言能力とは、単純に言うと遺言の内容を理解し判断する能力を言います。たとえば、認知症の程度が重い場合には、遺言能力が否定され、遺言が無効となる場合があります。
5、弁護士をつけるメリット
遺産相続の際に弁護士をつけるとどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。
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(1)手続きを進めてくれる
通常の遺産相続でも遺言書を探したり、相続協議でもめたりと大変ですが、ここに愛人が関わってくるとさらに手続きや解決に向けての対処が大変になるでしょう。
弁護士に依頼した場合、さまざまな手続きを正確かつ迅速にこなします。また、愛人側が弁護士に依頼している場合でも間に入ってこちらの主張をはっきり伝えることが可能です。あなたが受ける可能性がある、相続における損失を最小限に抑えることができるでしょう。 -
(2)適切なアドバイスを得られる
相続の悩みはさまざまな種類がありますが、弁護士に相談することで適切なアドバイスを受けることができます。
たとえば、相続人の人数が不明であれば、依頼人に代わって弁護士が戸籍調査を行います。さらに、銀行口座がわかれば開示請求を行うなど、裁判所における代理権を持っている弁護士だからこそできることは少なくありません。
6、まとめ
夫や父親に愛人がいる場合、原則として相続権は持っていなくても遺言書に相続に関する記載が書かれている場合や、愛人との間に認知された子どもがいる場合は、もともともめやすい相続協議がよりいっそう複雑になります。
弁護士は依頼人の不利益にならないよう遺留分侵害額請求や、場合によっては遺言書を無効とする裁判を起こすなど、当事者だけでは難しい手続きを代理で行います。
相続についてお困りのことがありましたら、お気軽にベリーベスト法律事務所 高崎オフィスへご相談ください。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています