初めてアルバイトを雇うのに労働契約書が必要かどうかを知りたい方への解説
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群馬県庁労働政策課、高崎及び太田行政県税事務所に設置されているぐんま県民労働相談センターでは、毎月第1金曜日を「若者の使い捨てが疑われる企業などに関する重点相談日」として、相談に応じています。
これまでは身内だけで仕事をしてきたが、忙しくなり、アルバイトを採用する必要があると感じている経営者もいらっしゃるでしょう。
初めてアルバイトを雇用するときほど、「口約束でもいいのか?」、「契約書が必要か?」などで悩まれるかもしれません。今後のことも考えれば、法律上における規定を知り、慎重に準備を進めたほうがよいでしょう。ベリーベスト法律事務所・高崎オフィスの弁護士がアルバイトやパートの雇用契約書について解説します。
1、アルバイトやパートタイマーを雇う場合にも雇用契約書は必要?
「雇用契約書」とは、労働者がどのような働き方をするのかという労働内容に関するさまざまな決定事項を雇用者と確認するための契約書です。労働する時間、労働する場所など、いくつかの項目が記載されており、雇用者側と労働者側双方の認識にズレや勘違いを減らすために重要なものとなります。
しかし、実際には雇用契約書が作成されないことは多々あります。それはなぜなのか、法的根拠について知っておきましょう。
本来、事業主は従業員に対して書面にて労働条件を提示する義務があります(労働基準法第15条、同規則第5条第3項)。たとえ雇用形態に正社員やアルバイトという違いはあっても、この義務を果たさなければならない点に変わりありません。
ただし、民法第623条には、「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」と規定されています。つまり、法律上、労働に関する契約書は交付義務がない書類であるといえます。発行しない場合の罰則規定は設けられておりません。具体的な書面を作成していなくても、
雇用契約については口約束でも有効とされる場合がほとんどでしょう。
2、アルバイトやパートタイマーの雇用契約書と労働条件通知書
改めて、アルバイトを雇用する際にはあったほうがよいといえる「雇用契約書」や、「労働条件通知書」について解説します。
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(1)契約書と通知書の違い
雇用契約をする際、「雇用契約書」ではなく「労働条件通知書」や「雇用通知書」などの「通知書」を発行することがあります。まずは契約書と通知書の違いについて解説します。
一般的な「契約書」は、記載されている労働契約書の内容に対して、双方が問題ないと確認したのち捺印しあう書類です。しかし、労働条件通知書(雇用通知書)などは、雇用者側から通知するのみで可とされるものです。
雇用者側としては、一方的に通知するだけで完結するほうが互いに手間がかからないと考えることでしょう。そこで現状では、「雇用契約書」は作成しないケースが多い傾向があるようです。
しかし、互いに確認して納得した上で署名捺印をしてもらう「雇用契約書」とは異なり、結果的に、雇用者と労働者の認識にズレが生じるリスクが高くなるでしょう。 -
(2)アルバイトやパートタイマーの雇用契約書と労働条件通知書の違い
まず、「労働条件通知書」とは、労働者側に渡すべき労働基準法に基づいた労働条件をきちんと書面にした書類を指します。前述のとおり通知書であるため、アルバイト側の合意がなくても発行できます。
「労働条件通知書」と「雇用契約書」の違いは3点あります。ひとつめは、作成の義務があるか、です。現在、雇用契約書の作成は法律によって義務付けられている物ではありません。しかし、労働条件通知書の交付は雇用者の義務として定められています。
ふたつめの違いは、雇用側にとって一番大きな違いとなるでしょう。「通知書」か「契約書」かの違いです。雇用契約書は双方合意の証拠となるため、労使間トラブルとなった際に契約書を盾に争うことができます。ところが、労働条件通知書は合意にいたった証拠がありません。そのため、労働者が「通知書はもらっていない」と言い張るケースが考えられます。 -
(3)アルバイトやパートタイマーの雇用契約書と労働条件通知書に記載すべきこと
雇用契約書と労働条件通知書に記載すべき主な内容は以下のとおりです。
【雇用契約書】
「労働契約の期間」「就業する場所」「業務の内容」「始業と終業の時刻」「休憩時間」「交替制について」「休日」「有給休暇」「賃金」「退職」に関する事項の明示。
アルバイトやパートタイマーを雇用する際、期間を定めた契約(有期労働契約)を行う場合は、下記の事項も明示しましょう。
「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」
ただし、労働基準法第14条において、有期労働契約の期間は原則3年以下と定められている点に注意が必要です。
【労働条件通知書】
「労働契約の期間」「就業する場所」「従事する業務の内容」「始業時刻」「終業時刻」「残業の有無」「休憩時間」「休日や休暇」「交代制勤務に関する事項」「賃金の決定、計算、支払方法等」「賃金の締日、支払日」「退職」「有期労働契約を更新する場合の基準」に関する事項の明示。
労働条件通知書などの様式については、厚生労働省のページにテンプレートがアップされています。ぜひ参考にしてみてください。なお、雇用契約書にするには、従業員の署名欄が必須となります。業種や職種などによっても記載すべき事項が異なるケースがあるでしょう。万が一の際に備えるためにも、社労士や弁護士によるチェックを受けておくことをおすすめします。
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(4)アルバイトやパートタイマーの雇用契約書と就業規則との関係
「雇用契約書」と「就業規則」の関係はご存じでしょうか。このふたつの違いをわかりやすく言葉にすると、以下のとおりです。
- 雇用契約書……アルバイトやパートと会社の個別的な労働契約
- 就業規則……「従業員全員」と会社の包括的な労働契約
雇用契約書がなく、特別な事情がない場合、労働契約法第7条に基づき就業規則の内容がそのまま労働条件になります。とはいえ、雇用関係で発生したトラブルは、人手不足でどこも悩んでいる今、致命的なダメージになりかねません。トラブルを避けるためにも、適切な内容の雇用契約書を結んでおいた方が安心といえるでしょう。
3、アルバイトやパートタイマーの雇用契約書と労働条件通知書を作らなかったらどうなるの?
前述しましたが、雇用契約書を作成しなかったとしても、罰則はありません。
しかし、あなたが雇おうとしている者がアルバイトやパートにしても、もしくは正社員だとしても、少なくとも労働条件は労働者へ書面明示することが会社の義務です。
万が一にも労働条件が書面にて明示されていなかった、通知した労働条件の内容が労働基準法で定められたルールを満たしていないなどの場合は、労働基準法120号1号に基づき、30万円以下の罰金刑に処されることがあります。
4、アルバイトやパートタイマー雇用契約書と労働通知書の内容に不安なら弁護士へ
なんとかして自力で問題のない雇用契約書や労働通知書を作成しようとしても、さまざまな不安を覚えることでしょう。初めてであればなおさらです。
実際に致命的な不備があれば、あとで思わぬトラブルに巻き込まれてしまう可能性は否定できません。そのような不安を払拭するためにも、ご自身で作った雇用契約書や労働条件通知書などは、弁護士や社労士などの専門家に書面を見せ、リーガルチェックしてもらうことをおすすめします。どこに気を付ければいいかなどのアドバイスを行います。ぜひお気軽にお問い合わせください。
5、まとめ
雇用契約書は、労働における取り決めを書面にて明示することによって、事前にトラブルを防ぐことができる重要な契約書です。正社員やアルバイトなどはもちろん、試用期間のある従業員とも、雇用主として雇用契約書をとりかわすようにしてください。
雇用契約書のことで不安がある場合は、ぜひベリーベスト法律事務所・高崎オフィスにご相談ください。初めての方にもわかりやすく説明させていただきます。迷ったときに手軽に弁護士回答が得られる顧問弁護士サービスもお手頃な価格で設定しておりますので、一度お問い合わせください。
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