就業規則は作るべき? 10人未満の会社でも作るべき理由と作成方法

2020年07月17日
  • 労働問題
  • 就業規則
  • 10人未満
就業規則は作るべき? 10人未満の会社でも作るべき理由と作成方法

令和元年8月、高崎市内の企業と同社相談役が労働安全衛生法に違反したとして書類送検されたという報道がありました。会社を営む上では、労働安全衛生法や労働基準法といった法律を遵守しなければなりません。違反すれば、本報道のように送検されてしまう可能性もあるでしょう。

労働基準法には、常時従業員が10人以上いる企業には、就業規則の作成と届出を義務づけるという規定があります。では従業員が10人未満の場合は、就業規則を作成しなくてもよいのでしょうか。今回は高崎市の弁護士が、従業員が10人未満の場合でも就業規則を作るべき理由や作成方法などを解説します。

1、就業規則を定めたほうがよい理由とは

労働基準法では、従業員が10人未満の企業には、就業規則の作成を義務づけていません。しかしながら、従業員数に関わらず、就業規則は作成すべきです。ここではその理由を詳しく解説していきたいと思います。

  1. (1)パートやアルバイトが10人以上いる場合は作成必須

    正社員が少ない、もしくは代表ひとりという状態でも、アルバイトやパートなどを含めて常時10人以上雇用している場合は、就業規則を作成する義務が生じます。作成した上で、労働基準監督署に届け出て、就業規則を従業員に周知しなければなりません。

  2. (2)残業代未払問題を防止できる

    近年では、残業代未払などの問題が顕在化し、労働者の多くが残業代の支払いに関して敏感になっています。その際に、問題となるのが就業規則の規定の甘さによる残業代未払の発生です。

    たとえば、「みなし残業代制度」を取り入れている企業の場合、就業規則等で定められたみなし残業時間の範囲内の残業代は、固定残業代として毎月支払われます。その場合は、「毎月20時間相当の時間外労働の割増賃金は給与に含む」というように、みなし残業代の対象となる時間外労働を就業規則等に明記しなければなりません。

    残業時間が明記されていなければ、みなし残業代制度は成り立ちませんので、すべての残業代を支払うことになります。このようなトラブルを防止するためには、就業規則に明確に残業代の規定を盛り込んでおく必要があります。

  3. (3)退職トラブルを抑止できる

    企業が労働者を解雇することは、労働基準法によって厳しく規制されています。理由なく退職を迫ると、場合によっては不当解雇だとして慰謝料請求等の訴訟を提起されるおそれもあります。それらのリスクを回避するために有効なのが、就業規則の懲戒規定です。

    会社側が解雇できる場合を規定しておくことで、後の訴訟リスクを軽減できます。ただし、懲戒規定が、労働基準法を逸脱している場合は、それ自体が無効となってしまいますので、専門家に相談の上決めていくことが重要です。

  4. (4)ルールを明確化できる

    従業員が少人数であるとは言え、ルールの周知徹底は難しく、人的リソースが割かれてしまいます。しかし、就業規則があることでルールの共有化を図れ、業務の効率化に直結すると考えられます。
    たとえば、「昇級は社長の裁量によって行われている」という場合、従業員間での不公平が生じ、不満を招くことになりかねません。しかし、昇級規定を就業規則で定めておくことにより、従業員間の不満が解消され、モチベーションのアップに繋がります。経営者も規定に従って昇級を決定すればよいので、業務の効率化になるといえます。

    また、具体的に禁止事項を定めておくことで、さまざまなトラブルを未然に防ぐことも可能です。たとえば、近年話題になっている従業員による不適切な動画や画像をインターネットにアップロードする行為等もあらかじめ就業規則で禁止しておくことで、ある程度防止できるでしょう。

2、就業規則の定め方と作成方法

次に就業規則の作成方法を説明します。

  1. (1)必ず記載しなければならない項目(労働基準法第89条第1号から第3号)

    就業規則には必ず盛り込まなければならない項目があります。

    • 第1号: 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交代に就業させる場合おいては終業時転換に関する事項
    • 第2号: 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号に同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
    • 第3号: 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
  2. (2)労働関連分野の法律に準ずる規定にする

    内容を作成する際に注意すべき点は、労働基準法などの労働関連分野の法律に違反しない規定にすることです。

    たとえば退職についての事項であれば、期間の定めがない労働者(正社員など)であれば、民法第627条第1項によって退職日の2週間前に退職の通知をすれば退職が可能としています。しかし企業側としてはその短期間で退職されては引き継ぎや後任探しもできずに、経営に支障をきたすことになります。それを防止するために、「退職の1か月前に通知すること」などの規定が行われるケースは少なくありません。

    しかし、このような規定を作成したとしても、民法の定めを超過しているため、従業員が2週間前にやめたいといわれれば了承せざるを得ないでしょう。就業規則にあるという理由で在職を求めることはできないのです。

    このように、就業規則が各種法令に違反している場合は、就業規則の規定が無効になる可能性があり、実効的とはいえません。したがって、作成する際には弁護士等の専門家への相談が必要でしょう。

    上記の必須項目以外にも、賞与や最低賃金、食費や安全衛生に関する項目、業務外の疾病扶助や災害などに関することも記載しておかなければなりません。また正社員、アルバイト、パート、契約社員などのそれぞれの働き方に応じた労働条件も規定しておく必要があります。

  3. (3)就業規則を正しく運用するために必要なこと

    就業規則の作成は、労働トラブルの防止だけでなく働きやすい職場作りには必須ですインターネット上にひな形がアップロードされていますが、個別の状況を考慮していない就業規則は、リスクを軽減させるどころかさまざまなリスクを増大させるおそれがあります。そのため、各会社の実態に応じたオーダーメードで作成したほうがよいでしょう。

    なお、労働基準監督署への届出については、従業員数が10人未満の場合、義務ではありません。それでも、就業規則を適用するためには、従業員への周知は必須です。会社の目のつく場所に掲示する、従業員個人に配布するなどの周知方法が必要となります。

3、専門家へ相談する2つのメリット

就業規則は経営者や従業員が作成するのではなく、弁護士や社会保険労務士など専門家に依頼することを強くおすすめします。以下にその理由を説明します。

  1. (1)オーダーメードの就業規則が可能

    同じ業態、業種であっても全く同じ会社はありません。ですので、就業規則もそれに合わせて作成する必要があります。テンプレートの就業規則では、個別の事情を考慮したものにならずリスクに備えることができません。起きうるリスクを軽減した上で、業務効率化が図れる就業規則を作成するためには、専門家のサポートが必須です。法律の専門知識がない方が、隙のない就業規則を作ることは非常に困難です。労働基準法だけでなく、憲法や民法、安全衛生法など、さまざまな法律を把握した上で、作成しなければならないからです。

    弁護士だけでなく、社会保険労務士にも相談することで、さらに法的に隙のない就業規則になります。就業規則の作成を依頼する場合は社会保険労務士も在籍している事務所に依頼するとよいでしょう。

  2. (2)状況の変化に応じて臨機応変に対応してもらえる

    弁護士などの専門家に就業規則の作成を依頼した場合、会社の変化に応じて就業規則の規定を変更可能です。

    外国人を雇用した場合は外国人に関する規定を付け加えなければなりませんし、副業を解禁する場合はその旨を記載する必要があります。働き方改革によって、就業時間や就業場所などを変更する場合も、その都度変更が必要です。これらの対応は、経営者の方や担当者が都度行うことは難しく、実情に即していない就業規則になってしまいかねません。

    しかし、弁護士に依頼することで、世の中や業態の変化などにも臨機応変に対応できます。

4、顧問弁護士をつけることの重要性

就業規則の作成を弁護士に依頼する場合は、個別に依頼するのではなく顧問弁護士契約を結び、就業規則の作成を依頼したほうがトータルでのメリットが大きいケースが多いでしょう。

顧問弁護士契約を結んでおけば、就業規則の変更も気軽に依頼できます。顧問弁護士は会社の実情を理解してくれているので、毎回位置から説明する必要もありません。会社の状況を適切に判断して、最適な就業規則の作成が可能となるのです。

トラブルが発生した場合も、即座に事情を把握して対応できます。ベリーベスト法律事務所では、必要に応じてリーズナブルな価格帯からご依頼いただける顧問弁護士サービスを提供しています。弁護士だけでなく労務問題の専門家である社会保険労務士も在籍しておりますので、よりベストな就業規則を作成可能です。就業規則のチェックも受け付けておりますので、就業規則でお困りのときはご連絡ください。

5、まとめ

10人未満の会社であれば、法律上は就業規則の作成は義務ではありませんが、作成しておいた方がよいでしょう。ささいな業務連絡の頻度を減らせますし、さまざまなトラブルを未然に防止する働きをもたせることができるためです。

就業規則を作成する場合は、専門家に作成を依頼し、法的に隙のないものにしておきましょう。ベリーベスト法律事務所 高崎オフィスでは、就業規則に関する相談も可能です。お気軽にお問い合わせください。親身になって、オーダーメードの就業規則作成はもちろん、労働者とのトラブルが起きた際の対応など、的確なサポートを行います。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています