残業禁止だからしかたなく持ち帰り残業…未払い残業代請求できる?
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高崎市に隣接する太田市の病院で、時間外手当(残業代)2億円超が未払いとなっていることが発覚したことが報道されました。本件は計算ミスが原因だったようですが、残念ながらあえて残業代を支払わないという会社は少なからず存在します。
場合によっては、働き方改革により、上司などから残業禁止を言い渡されていても仕事が終わらないため、やむを得ず持ち帰り残業をしているというケースもあるようです。さらには、勤務時間中にはシフト管理や報告書の作成などができず、持ち帰って自宅やカフェなどでこなすことが常態化されているケースもあるでしょう。
しかし、持ち帰り仕事も残業として認定される可能性があることを、ご存じでしょうか? 本コラムでは、残業問題の中でも、「持ち帰り残業」について、弁護士が詳しく説明します。
1、持ち帰り残業とは? 残業代は請求できるのか
「持ち帰り残業」といわれても、あまりに普段から当然のように、仕事を持ち帰って自宅などでこなしていると、「残業している」という意識もないかもしれません。あるいは、職場によっては業務の一環であるかのような環境となっているケースもあるでしょう。
まずは、「持ち帰り残業」となる業務について、解説していきます。
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(1)持ち帰り残業が発生しやすい状況と増加原因
そもそも「持ち帰り残業」とは、本来会社で残業として行うべき業務を持ち帰り、自宅など職場以外の場所で業務を行うことです。勤務先から離れることから、上司の指揮命令下にないことが多く、残業代が支払われないという問題も起きやすくなっています。
持ち帰り残業が発生しやすい状況は、以下のようなケースです。
●残業が禁止されている会社
●管理職
政府が実施する、長時間労働を削減するための施策のひとつ「働き方改革」によって、残業規制が厳しくなりました。しかし、「働き方改革」が名目上では行われていても、実質的な「働き方」が改革されていない職場も少なくないようです。このような職場では、残業時間は規制されるものの、業務量が変わらないため、持ち帰り仕事が常態化し、自宅で作業しなければならなくなるという悪循環に陥ることがあります。
「仕事が終わらないが、残業できない」という状況では、「持ち帰ってやらなければならない」という暗黙の了解があるようです。 -
(2)持ち帰り仕事の指示がある・暗黙の了解になっていたケースは請求できる可能性が高い
本来、業務時間を超えて労働をすれば残業代が支払われますが、持ち帰り残業の形で仕事を行うと、管理されていない分、残業代の計算そのものが難しいという事実があります。しかし、上司や会社が、持ち帰り残業が必要だと認識しているケースであれば、業務として認められます。「持ち帰ってでも間に合わせろ」などといった明確な命令がなされているケースが代表的です。
また、上司から明確な指示がなくても、所定労働時間に比して業務量が多く、納期に確実に間に合わない状況が生まれることもあるでしょう。その場合は業務が任された時点で、残業を命じられていると判断することもできます。これを「黙示の業務命令」といいます。
たとえば、「この仕事を明日までに終わらせろ。ただし残業はするな。」というように、業務時間内では明らかに終わらない量の仕事を任されて、さらに残業も禁止されている場合は自宅で作業するしかありません。このようなケースは「黙示の業務命令」と考えられ、残業代を請求できる可能性が高くなります。
つまり、残業を請求できる可能性があるケースは、「上司に命令されて持ち帰り残業をしている場合」です。命令されているのであれば、作業場所がどこであろうと、作業に要した時間は労働時間に含まれます。 -
(3)自主的に業務を持ち帰って対応したケースは残業にならない
給料が発生する労働時間というのは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。「自主的に持ち帰り仕事をする」ことは、使用者の指揮命令下に置かれているとはいえません。
「家の方が集中して取り組めるから」、「時間をかけて取り組みたいから」など自分の都合で持ち帰っても、原則として、労働時間には該当せず、残業に当たらないということです。
会社によっては機密情報漏えいの可能性などから持ち帰り残業を禁止している場合があるので注意してください。このケースにおいては、残業代請求ができない可能性が高いと考えられるでしょう。
2、持ち帰り残業の未払い残業代請求をするためにすべきこと
もしあなたが行っている「持ち帰り残業」が、残業代が請求できるケースで、これまで支払われていなければ、残業代を請求することができます。ここでは、具体的にどのようにすれば請求できるのかを解説します。
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(1)持ち帰り残業分の労働時間を立証する証拠を集める
残業代が請求できる時間とは、いうまでもなく「労働時間」です。労働基準法における「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮監督下に置かれている時間」を指します。これまで説明してきたように、たとえ自宅での作業であっても、明示的にあるいは黙示的に持ち帰り残業を指示されているケースでは、労働基準法に定められた「労働時間」に該当する可能性が高いといえるでしょう。
つまり、持ち帰り残業の作業時間も含めて、労働基準法の「1日8時間以内、1週に40時間以内」の労働時間を超えているのであれば、残業代の請求は可能だといえます。
しかし、残業代の請求を行うためには、「残業をした」という証拠がなければ請求ができません。つまり、持ち帰った仕事をこなすために何時間作業を行ったのかを証明できなければ、請求は受け入れてもらえないでしょう。
特に持ち帰り残業の場合、途中で家事を行ったり食事をしたりするなどにより、実労働時間がわかりにくい部分があります。状況によっては、作業時間のすべてを労働時間として認めてもらえない可能性もあるでしょう。
持ち帰り残業代を請求する際には、タイムカードなど、労働時間を管理するものがないことから、労働者本人の自己申告が重要な判断材料になります。
信用を高めるための証拠として役立つものとして、業務上の指示書や上司とのメールです。たとえば、上司から届いた「この仕事を何日のいつまでに終わらせてください」などの記録は、有力な証拠となります。そのほかには、「会社で終わらないなら家で仕事しろ」など、上司命令の録音も証拠になるでしょう。
持ち帰り残業代を請求する際は、上司が持ち帰り残業を認識していたことを示す必要があるため、メールや音声が手元にあれば大切に保存しておきましょう。ただし、メールなどのデータは会社に削除される可能性もあります。可能な限り、コピーや写真で保存しておきましょう。同様の内容をLINEなどのSNS経由で送られてきた場合も十分証拠になります。
また、就業規則のコピーなどがあると、残業が禁止されていることを示すことができます。さらに業務日報があれば作業量もわかり、持ち帰って仕事をしなければ納期に間に合わなかったことを主張しやすくなるでしょう。 -
(2)証拠が集められないときは弁護士に相談を
職種や職場の環境によってはうまく証拠が集められないこともあるでしょう。その場合でも諦めないでください。
仕事内容が記録されたものや上司から指示されたことがわかるものなど、明確なものでなくても、少しでも判断材料になりそうなものを探してみてください。これらの端緒となるものを見つけたら、証拠になるかどうか、どのように活用すればよいかなどについては、弁護士に相談することをおすすめします。 -
(3)証拠を集めたあとすべきこと
持ち帰り残業の証拠というのは、残業代の問題以外にも役立つ可能性があります。過労死や過労自殺、メンタルヘルスなどの労災問題の証拠としても使えるのです。労災申請には、「業務が原因で症状が発症したこと」を証明する必要があります。そのときに、業務量が多いことを示すこともできるので、労災認定にも効果的です。
どのようなものが証拠になるのかは、ケース・バイ・ケースだともいえます。自力だけで請求しようとしても、多くの企業が弁護士や社労士などの専門家が対応してくる可能性が高いものです。未払い残業代を確実に請求したいとお考えのときは、弁護士に相談し、着実な手続きを進めていくことをおすすめします。
お問い合わせください。
3、まとめ
業務中に仕事が終わらず持ち帰って仕事をしたとしても、持ち帰り残業として認められるのは上司から指示されたことを証明できるケースのみに限られます。通常の残業代請求に比べて証明することが難しいため、日頃から証拠となりそうなものは記録しておくことをおすすめします。
残業代の請求時以外でも、労働問題を抱えた際、大いに役立つ可能性があるため、たとえタイムカード上では退勤していたとしても、実質勤務をしていたという証拠は集めておいて損はありません。
「どれが証拠になってどれがならないのか?」などの判断や、残業代を獲得するまでのサポートは、弁護士にお任せください。労働問題についての知見が豊富なベリーベスト法律事務所 高崎オフィスの弁護士が、あなたが抱える問題が解決するよう、アドバイスを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています